そしてもう一つは、作業に没頭しているときに邪魔が入ると、その作業が記憶にとどまる期間が長くなることだ。しかも彼女の実験によれば、その作業は脳内リストの上位に押しあげられるという。

 重要な仕事の最中に邪魔をされればイライラする。おせっかいな隣人がやって来る、外に出せとネコにせがまれる、営業電話がかかってくる、といった類いの邪魔は本当に腹立たしい。ただし、敢えて自ら邪魔をするのはまったくの別物だ。

 小説家のディケンズはそれを得意とした。彼の小説は、続きが気になる場面で次の章に続くことが多い。テレビドラマの脚本家も、シーズン1が終わるとき、シーズン2を視聴者に期待させる終わり方にする。だから、叫び声、真っ暗な廊下から聞こえる足音、予想外の人間関係の破綻で最終回の幕が閉じる。

 この種の邪魔は謎を生む。それに、ツァイガルニク効果により、未完のエピソード、章、作業が脳内リストの上位に押しやられ、次はどうなるのかという気持ちにさせられる。それこそまさに、長期にわたって何かを成し遂げたいときの理想の状態だ。

 つまり、長期にわたって創造性を積み重ねていく「抽出」という過程に真っ先に含まれるのは、学習の敵とみなされている「邪魔」なのだ。

 (※この原稿は書籍『脳が認める勉強法』の第7章から一部を抜粋して構成したものです。次回は2月15日(月)公開予定)