「これ、母の形見のキモノなんですが、なんとか仕立て直してもらえないでしょうか」

「インターネットで買った反物なんですが、呉服屋さんには頼めなくて……」

 そうして、ポツリ、ポツリと「仕立て直し」などの依頼が舞い込むようになった。お客さんが目に見えて増えてきたのは、ここ2年くらいのことだという。

 店舗経由ではこれまで、のべ1000人から依頼を受けた。汚れが目立つ古いキモノを染め直して帯にすることを提案したら、タンスの奥にしまってあったキモノを15枚ほど持って来て、「これも全部、お願いします」と置いていった客もいる。キモノはまだ、あるところにはある、のだ。

 なかには、百貨店で反物を買い、「上野さんのところで仕立てて欲しい」と指名してくれるお客さんもいる。「おたくでやってくれるよう、頼んどいたから」とお客さんに言われたりすると、「これこれ、この瞬間を待っていたんだよなあ」としみじみうれしくなる。

 お店を開いて、何が一番、変わりましたかと質問すると、上野さんはこれ以上ない笑顔で言い切った。

「お客さんの顔が見えるので、シゴトが前よりもおもしろくなりました」

 注文数や額から言えば、百貨店や呉服店などから依頼される方がまだまだ多い。だが、お金で買えない「やりがい」もある。

「たくさんたのむからまけてよ」などと言われない分、個人客相手の商売には否が応でも力が入る。

不況こそ仕立て屋のチャンス
お直し需要が急増中

 キモノは本来、リサイクルすることを念頭に作られている。直線裁ちの直線縫い、しかも手縫いにこだわるのは、汚れたらそれをほどいてバラバラにし、「洗い張り」にかけることを想定しているからだ。

 汚れた部分は、仕立て直す際に、目立たないところへ縫い変えて使う。古くなったキモノは、染め直すなどして羽織や帯にする。それでも駄目なら半纏に、さらにボロボロになったら、ぞうきんやハタキにして使いきる。