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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

王毅の訪米に滲んだ米国、北朝鮮、台湾を
めぐる戦略的意図と不確定要素

加藤嘉一
【第71回】 2016年3月1日
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米中関係が構造的矛盾を抱えるなか、
王毅外相が米国を正式訪問した背景

2月下旬、中国の王毅外相が米国を正式訪問した。中国をめぐる懸案事項が表面化するなかでの訪米にはどんな戦略的意図があったのだろうか Photo:AP/AFLO

 2016年2月22~25日、中国の王毅外相が米国を正式訪問した。4回目の核実験や“水爆実験”を実施した北朝鮮への国連安保理新決議の内容や枠組みを決定する上で、肝心な時期における中国外相の訪米であった。米中両国の合意なくして新決議の効果的な採択や有効的な実施は考えにくい。

 依然として緊迫する朝鮮半島や南シナ海情勢を含め、米中関係に横たわる構造的矛盾が随時随所で表面化するリスクが振り払われないなか、換言すれば、米中政治関係が悪化する土壌がいまだ克服されていない情勢下において、それでも王毅外相と米国側カウンターパートのジョン・ケリー国務長官は、この1ヵ月で3回会談したことになる。

 訪問期間中、王毅はバラク・オバマ大統領、スーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官とも会談した。その他、ロバート・ゼーリック元国務副長官、ズビグネフ・ブレジンスキー元国家安全保障担当大統領補佐官、リチャード・ハース外交問題評議会会長といった有力者とも精力的に意見交換をし、彼らの米中関係への貢献を称えることで“お友達”を増やすことに余念がなかった。

 この事実をもってして、昨今の国際関係の方向性や安定性を左右する米中2大国の間には、必要なとき、迅速に意思疎通を行うハイレベルなチャネルと、それを機能させる基本的な信頼関係は醸成されていると言えよう。もちろん、裏返してみれば、根本的な次元で信頼できないからこそ、頻繁に会うことで互いの心の中を探り合っているということでもある。

 本連載は、米中関係をはじめとした外交問題や国際関係を扱う性質のものではないため、王・ケリー会談の内容や米中関係への影響に関しては深入りしない。ただ、これまでも随時指摘してきたように、米国という存在、そしてそんな米国との関係性は本連載の核心的テーマである中国民主化問題にとっては「外圧」としての役割を担っている。換言すれば、米中関係の動向を追うことは、外からの視角から中国民主化の現状をモニタリングすることと同義的である。

 このような意識に立ち、本稿では王毅外相訪米プロセス・内容から、中国民主化の現状と展望を見つめる上で示唆に富むと私が考える3つのケースを抽出し、インプリケーションとしたい。

 1つ目が、これから未来に向かっていく世界秩序のなかで、米国との関係性という観点から、中国がどのようなポジションを狙っていくのか、その過程で、自らはどのような国家になりたいのかという問題である。米国という存在・体制・価値観を前にして、自らのそれをどう相対化していくのかとも言える。

 中国共産党指導部の戦略的意図を探る作業とも言えるこの点を知る上で参考になるのが、2月25日、王毅外相が米シンクタンク・国際戦略研究所(CSIS)で行った演説『発展中の中国と中国外交』である(中国外交部が公開した中国語全文参照)。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

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