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逆境経営 ~山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法~
【第17回】 2016年3月8日
著者・コラム紹介バックナンバー
桜井博志 [旭酒造株式会社 代表取締役社長]

表面的にお客様に合わせた魅力は長続きしない
自分たちのこだわりを評価してくれるお客様を探す
星野リゾート・星野佳路代表 × 旭酒造・桜井博志社長 【対談後編】

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純米大吟醸<獺祭>を展開する旭酒造の桜井博志社長が、星野リゾートの星野佳路代表をお迎えした対談の後編をお送りします。急成長する地方企業として良い人材の確保・育成に悩みながら先行して取り組んできた星野代表のお話を軸に盛り上がった前編に続いて、後編では、異業種ながらいずれも日本文化に深く根ざした商品・サービスを提供するうえで、価値の本質とは何か、それをいかに見つけられるのか、さらにはその海外展開に対する考え方について大いに語り合って頂きました。最後は、ファミリービジネスを引き継ぎ、父である先代との相反を経て改革・拡大を進めてきたという共通点に、おふたりの思いが呼応します。

地域にこだわった魅力こそ
本物であり、進化しつづけられる

桜井 弊社からは少し離れてはいますが、同じ山口県にある長門湯本温泉での開発も考えられていらっしゃるとか。あの周辺は萩など観光地もいろいろありますし、面白い拠点になりそうです。

星野佳路(ほしの・よしはる)プロフィル/星野リゾート代表。1960年4月、長野県軽井沢町生まれ。30代で家業の温泉旅館を継承すると、経営難に陥ったリゾートホテルやスキー場の再生、運営に手腕を発揮している。「星のや」「界」「リゾナーレ」などのブランドで国内35拠点を運営するほか、インドネシア・バリ島(2016年開業予定)など海外2拠点にも展開している。趣味は自然の山を滑るバックカントリースキー。(写真:住友一俊)

星野 こちらは、まだ検討中です。日本全国の温泉地であればどこでも出たいと思っているのですが、長門には、たとえば関東圏から行く箱根や伊豆とは全然違った魅力がありますよね。少し足を伸ばせば萩や秋芳洞があったり、周辺観光を考えるとすごくいい。竹富島などもそうですが、遠いところは来て頂くのが少し大変でも、お客様にはゆっくりしようというモードに入っていただきやすいですし、日帰りの観光客が一杯ひしめく場所とはひと味違う、満足度が高まる要素がたくさんあるんですよね。

桜井 星野リゾートさんの主力ブランドであるラグジュアリーリゾート「星のや」、高級温泉旅館の「界」、スタイリッシュなホテルの「リゾナーレ」はどれも特徴があって強いブランド力をお持ちですが、それぞれが地域らしさにこだわられて個性がある、というのも良いですね。

星野 日本の旅の特徴は、春夏秋冬で季節ごとに変化するところにあると思うんです。サービスや食、部屋のしつらえが季節ごとにすべて変わっていきますよね。それも、再び春が来たら前と同じ状態に戻るのではなく、新たな春を感じられるように、スパイラル状に進化していくことが大切です。

 お客様に喜んでいただくには、そんなふうに魅力が継続しつつ進化することが重要だと思っていて、その本質は、お客様を向いて短期的な集客のためにカッコイイものを作るということとは違う。地域にこだわっているのは、地方が好きだからということでもありません。地域にこだわった魅力のほうが本物であり、かつ進化しつづけられる。それが結果として、外国からのお客様にもアピールできるんだと思っています。

桜井 表面的なところでお客様に合わせても長続きしない、という点には非常に納得です。酒の場合も、飲みやすいほうがいいとか、濃いほうがいい、安いほうがいい、と色々言われます。でも、本当に大事なものってお客様自身も言葉に出して言わないですよね。

星野 その通りですね。お客様も言わないというより、自分では気づかないということかもしれない。だから、お客様の要望をきいていても満足度が上がるわけではない。自分たちが良いと思うものやサービスにこだわって提供していくほかにないし、それを気に入っていただけるお客様を探すというのが私たちの姿勢です。

 たとえば最近は、純和風の歴史を感じられるしつらえは良いのだけれど、機能的な快適さに欠けるのでリピートしていただけない気がしていて。“和心地(わごこち)感”と呼んでいるのですが、和風のテイストを活かしつつ快適性と利便性で西洋ホテルに負けない“和”を演出していこうとしています。2016年7月20日に東京・大手町に開業予定の「星のや東京」ではまさにそれをご覧に入れます。

桜井 日本文化のいけないところで、着物などもそうですが、伝統を守り大事にするべきだと言うばっかりで、いざ購入しようと思うとどこに買いに行けばいいか分からないし、いつどんな素材や格のものを着るべきだというルールも細かくて煩雑ですし、おまけに価格も高い、着るのもそこそこ厄介…となると、衰退するのも分かります。

 和室については、私自身も前期高齢者の65歳になって同世代の友人たちとよく話題にのぼるのが、正座や布団敷きが辛くなってきたこと。実際、東京の旅館もすっかりなくなりましたから、機能面の快適さと“和”の落ち着くテイストが両立した旅館空間として、「星のや 東京」が都会の一等地に登場するというのは非常に楽しみですね。訪日外国人観光客はもちろん、国内のお客様も興味津々ではないでしょうか。

星野 そうですね。訪日観光客が増えているのは非常によいことですが、国内の観光消費は落ちていますから、ここは是非伸ばしたいですよね。2015年の訪日観光客数は1973万人と前年比47%増、消費額3.5兆円と72%増という勢いではありますが、国内の観光消費は18・5兆円(2014年。2015年確定値は6月公表)となんといっても母数が大きいですから。

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桜井博志 [旭酒造株式会社 代表取締役社長]

1950年、山口県周東町(現岩国市)生まれ。家業である旭酒造は、江戸時代の1770年創業。1973年に松山商科大学(現松山大学)を卒業後、西宮酒造(現日本盛)での修業を経て76年に旭酒造に入社したが、酒造りの方向性や経営をめぐって先代である父と対立して退社。79年に石材卸業の櫻井商事を設立して集中していた。父の急逝を受けて84年に家業に戻り、純米大吟醸「獺祭」の開発を軸に経営再建をはかる。社員による安定的な旨い酒造りを目指し、四季醸造の実現や遠心分離機の導入など改革を進めた。2000年頃から始めた海外販売を本格強化するため、2014年のパリを皮切りに海外直営店を出店予定である。


逆境経営 ~山奥の地酒「獺祭」を世界に届ける逆転発想法~

純米大吟醸「獺祭」を展開する旭酒造は、約30年前、普通酒を主体とするつぶれかけの酒蔵でした。先代である父の急逝により、急遽三代目を継いだ著者は、目の前の常識を疑い、新たな酒蔵として生まれ変わるべく、改革を進めます。変革を可能にし、海外約20カ国に展開するまでに至った、熱い心と合理的思考法を紹介します!

 

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