売上1兆円を超えるファッション衣料ブランド「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングのなかでも、ユニクロに次ぐブランドとして2006年から始まった「GU(ジーユー)」は、低価格でトレンドを身に着けられるという独自のコンセプトで多くのファンを獲得している。増収増益を続けるGUをけん引しているのは、かつて野菜事業で大赤字を出し、一度は経営の世界を退いた柚木治氏。経営に返り咲き、短期間で三度の方針転換を打ち出して現在の地位を確立した柚木氏に、経営復帰の背景と経営者としての哲学を伺った。
経営者として出した26億の赤字
多田 柚木さんはジーユーの代表取締役社長に就くまで、さまざまなキャリアを歩んできたかと思いますが、どういった経緯で現在の立場に就いたのでしょうか。
柚木 1999年にファーストリテイリングに中途入社して、最初はユニクロのeコマース事業の立ち上げを担当しました。その後、会社が新規事業を始めることを知って手を上げ、野菜販売を展開するエフアール・フーズの社長に就任。しかし、これが20億円以上の赤字を出して大失敗しました。
事業をたたむ決断をし、柳井に辞表を提出しましたが「借金を返してからにしてください」という、柳井ならではの叱咤激励を受けまして(笑)。会社に残りマーケティングや人事など担当していましたが、社員やお客様、取引先、株主などの期待をことごとく裏切ってしまったことで、完全に自信を喪失していましたね。「もう二度と経営などやるものか」と固く心に誓っていました。
多田 そこからまた経営の世界に戻ってきたのは、どうしてですか。
柚木 柳井からも3ヵ月ほど何度も「ジーユーの経営を見てくれないか」と打診されたのもありますが、決意を固めたのは当時ジーユーの社長をしていた中嶋からの言葉ですね。「いきなり初めから経営がうまくいくはずがない。一緒にやりたい。どうしても柚木さんと一緒にやりたいんだ」という誘いに、もう一度やろうと決めました。
しかし当時のジーユーブランドは事業存続が危ぶまれるほどの赤字が続いていました。ユニクロは高品質な商品を低価格で提供するというスタンスを掲げ、一方のジーユーは衣料品市場の最低価格を追求することを目指していました。
しかし、この2ブランドの差別化が中途半端だった。ただ単にちょっと安いユニクロになってしまっていたわけです。そこで、座して死を待つだけならば、大きな勝負をかけようという話になりました。