企業が成功した事業からの撤退を図るとき

成功事業が一夜にして衰退に転じる時代の生き延び方<br /> 『ビッグバン・イノベーション』
ラリー・ダウンズ/ポール・F・ヌーネス著
ダイヤモンド社 344p 2000円(税別)

 今年2月25日、経営再建を進めるシャープが台湾の鴻海精密工業の出資を受け、同社の傘下に入ると報道された。かつて液晶パネルで世界に名を馳せたシャープは、その液晶事業が激しい価格競争に巻き込まれたことで低迷。2011年に赤字に転落して以降、経営危機が続いてきた。液晶パネルの在庫評価減や液晶工場の減損など、好調だった頃の投資が負の遺産として大きくのしかかった。

 2014年にIBMは自社のPCサーバー事業を中国のLenovo Groupに売却した。IBMのLenovoへの事業売却はこれが初めてではなく、2005年に既にPC事業の売却も行っている。IBMにとってのPC事業といえば、かつては80%以上のシェアを誇った一人勝ちの事業だったはずだ。しかしIBMは、徐々にコモディティ化し利益率が落ちていくPC事業の先行きを見切り、ソリューションビジネスへと戦略を大きく転換した。それが功を奏し、10年経った今、IBMは世界的なソリューション企業に変貌を遂げている。

 この2社の対比からわかるのは、世界的な大企業でも一つの事業領域で勝ち続けることは難しく、戦略を誤れば、あっという間に経営破綻に追い込まれるということだ。経営者は絶えず新たな市場を開拓し、事業領域を見直しながら自社の生き残りを模索していかなければならない宿命にさらされる時代なのだ。

 これから、状況はさらに深刻になるようだ。本書の著者のラリー・ダウンズ氏とポール・F・ヌーネス氏は、100社を超えるケーススタディをもとに、近年起こっているのは、安定した事業をほんの数ヵ月か、時にはほんの数日で“破壊”する新たなタイプのイノベーションだ、と分析する。そしてその急激なスピードと破壊力を「ビッグバン(宇宙の始まりとされる大爆発)」になぞらえた。

 ダウンズ氏はアーサーアンダーセンやマッキンゼーなどのコンサルティング会社を経て、現在はアクセンチュアのハイパフォーマンス研究所のフェローの肩書きを持つコンサルタントだ。突如として起こる技術革新により、産業構造がどう変わっていくのかを長期的な観点から研究している。

 また、ヌーネス氏はアクセンチュア一筋のマーケティングのプロ。ハイパフォーマンス研究所の立ち上げにも関わり、ITの進化がマーケティング戦略に与える影響を、主に顧客の振る舞いとマーケティングチャネルの観点から分析・研究を続けている。

 本書では、この二人の著者が多くの企業分析から得た知見をもとに、ビッグバン・イノベーションの特徴やその発生メカニズムを整理し、とるべき対応策を提示している。