ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
日本に巣食う「学歴病」の正体

時代の変化に取り残された
高学歴社労士が溺れる深い劣等感

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第9回】 2016年3月8日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 今回は、60歳近くになりながらも、三十数年前の学歴を持ち出し、周囲をこき下ろす高学歴な社会保険労務士(以降「社労士」と記述)の男性を紹介したい。

 筆者はこの男性と取材を通じて知り合い、以降、何度か会ったことがある。その過程で、彼を取り巻く社労士仲間や取引先の関係者数人とも知り合いになった。以降、この男性(本稿ではA氏と記述)に関わる関係者の「噂」が筆者の耳に度々届くようになった。

 前述のようなキャラクターを持つA氏を「学歴病」と言ってしまえばそれまでだが、実は多くの人が程度の違いはあれ、かかっている病ではなかろうか。その背景に見えるのは、「時代の転換期についていけない人々」というキーワードである。今回はこの男性の言動から、学歴病の深層に迫りたい。


高学歴の社労士に見える
「人間の弱さ」の象徴

三十数年前の学歴を持ち出し、周囲をこき下ろす高学歴な社会保険労務士。時代の変化に取り残されつつある人たちの中にも「学歴病」は発生する

 社労士のA氏は早稲田大学第一文学部卒で、現在50代半ば。取引先の関係者をはじめ、周囲のあらゆる者を批判し、否定するのが癖になっている。

 「あんな社長では、ダメだろうね。労基法すら知らないから……(笑)」「そんな社員は権利意識の塊であり、何をしても上手くいかない……(笑)」

 筆者がA氏と直接合ったときに感じたこと、そして周囲の関係者が口にする評価をまとめると、次のようになる。

 自尊心の高いA氏は、世間が自分を軽く扱うことに怒り、不満を持っている。自分をひとかどの者と信じ込んでいる。学歴を持ち出すと、自らの実績や力量を覆い隠すことができると思い込んでいるフシもある。ところが周囲のほとんどの人は、「冴えない社労士」としか見ていない。そこに、克服しがたいギャップが生じ、喘いでいる――。

 A氏が会社員や会社の経営者、労働組合役員などを「労働法の知識がない」とバカにするのは、その劣等感を克服するためだろう。ときには、「中小企業の経営者や社員には学歴が低い人が目立つ」と口にすることがある。さらには同業の社労士を「短大卒では……」「〇〇大卒では……」とこき下ろすこともある。それを聞いた周囲の人々は誰も笑わないのに、1人で笑っている。その時間は15~30秒に及ぶという。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


日本に巣食う「学歴病」の正体

 今の日本には、「学歴」を基に個人を評価することが「時代遅れ」という風潮がある。しかし、表には出にくくなっても、他者の学歴に対する興味や差別意識、自分の学歴に対する優越感、劣等感などは、今も昔も変わらずに人々の中に根付いている。

たとえば日本企業の中には、採用において人事が学生に学歴を聞かない、社員の配属、人事評価、昇格、あるいは左遷や降格に際しては仕事における個人の能力や成果のみを参考にする、という考え方が広まっている。しかし実際には、学歴によって選別しているとしか思えない不当な人事はまだまだ多く、学閥のようなコミュニティもいまだに根強く存在する。学歴が表向きに語られなくなったことで、「何を基準に人を判断すればいいのか」「自分は何を基準に判断されているのか」がわかりずらくなり、戸惑いも生まれている。こうした状況は、時として、人間関係における閉塞感やトラブルを招くこともある。

 これまでの取材で筆者は、学歴に関する実に多くのビジネスパーソンの悲喜こもごもを見て来た。学歴に翻弄される彼らの姿は、まるで「学歴病」に憑りつかれているようだった。学歴は「古くて新しい問題」なのだ。本連載では、そうした「学歴病」の正体を検証しながら、これからの時代に我々が意識すべき価値基準の在り方を考える。

「日本に巣食う「学歴病」の正体」

⇒バックナンバー一覧