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長内 厚のエレキの深層

エレキ業界の誇る最新技術が
自動車とちっとも融合できない理由

長内 厚 [早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授/早稲田大学台湾研究所研究員・同IT戦略研究所研究員/ハーバード大学GSAS客員研究員]
【第5回】 2016年3月9日
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車がチューブの中を走る
「鉄腕アトムの世界」はやって来ない?

エレクトロニクスと自動車との技術融合は、口で言うほど簡単ではない。両者の技術開発の速度が、根本的に違うからだ

 いきなり他誌の話で恐縮なのだが、先日、産経デジタル「iRONNA」に寄稿したコラムに、次のような話を書いた。

 「手塚治虫の漫画や宇宙戦艦ヤマトでは、車がチューブの中を走り、宇宙船がはるかかなたの銀河まで旅をする未来予想図が描かれてきたが、こうした空想の世界の中でもほとんどの場合、テレビモニターはブラウン管と思しき奥行きのたっぷりある画面でしかない。21世紀の現在、実際には車はチューブを走っていないし、銀河を超えた宇宙旅行は実現していない。しかし、当時の漫画家やSF作家が思い浮かばなかったような、薄さ1cm以下の大型テレビは実現し、日本の多くの家庭に入り込んでいる」

 このコラムは、シャープがいかに早いタイミングで液晶テレビというアイデアを着想したかということを述べたくて書いたのだが、裏返せば、自動車産業はいかに変化が少ないかという話に通じる。それはなぜか。

 と言うのも、自動車ほど基本的な技術仕様の変化が少なかった民生用工業製品はないからだ。この1、2世紀の間、照明はろうそくから白熱電球、蛍光灯、LEDと全く異なる基本技術に代替されてきた。音楽を聴く装置もそうだ。レコードがテープレコーダー、CD、MD、MP3と従来の技術蓄積とは無関係の代替技術に置き換わってきている。こうした構成技術や基本構造(製品アーキテクチャ)の変化が大きい技術変化を経営学では、「能力破壊型イノベーション」と呼んでいる。

 一方、自動車はこの100年以上、内燃機関を持ち、それを回転運動に変えて、変速装置(ギア)を用いてスピードをコントロールし、動力をタイヤに伝える。方向の制御にはハンドルを用い、制動にはブレーキを使う。こうした基本技術に変化が少なく、全体の構成も大きく変わらないような技術変化を「能力温存型イノベーション」といい、企業が蓄積した技術やノウハウがモノを言う産業を構築してきた。

 自動車において流行の変化は、セダンやハッチバック、ワゴン、ミニバン、ワンボックスなど、「上物」の変化であり、自動車の機能部品の技術や構造が変化しているわけではない。実際に、セダンとハッチバック、ミニバンが共通の基本設計でつくられていることも少なくない。一橋大学イノベーション経営研究センター長でかつてマツダで商品企画をしていた延岡健太郎教授は、セダンやミニバンという「上物」の変化は、車に対する顧客の「意味づけ」の変化であり、機能的価値の変化というより意味的価値の変化であるとしている。

 つまり、自動車の進化とは、技術的には連続的な流れの中で少しずつ改良がなされてきただけで、エレクトロニクス産業のように大きく非連続な変化を体験してきていない産業であると言える。その反面、技術だけでは差が見せにくいので、技術以外での差異化、つまりアップルが携帯電話で成し遂げたように、消費者の感性や情緒に訴えかけることに知恵を絞ってきたのである。

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長内 厚 [早稲田大学商学学術院大学院経営管理研究科教授/早稲田大学台湾研究所研究員・同IT戦略研究所研究員/ハーバード大学GSAS客員研究員]

京都大学大学院修了・博士(経済学)。1997年ソニー株式会社入社後、映像関連機器部門で商品企画、技術企画、事業本部長付商品戦略担当、ソニーユニバーシティ研究生などを歴任。その後、神戸大学経済経営研究所准教授を経て2011年より早稲田大学ビジネススクール准教授。2016年より現職。早稲田大学IT戦略研究所研究員・早稲田大学台湾研究所研究員を兼務。組織学会評議員(広報委員会担当)、ハウス食品グループ本社株式会社中央研究所顧問、(財)交流協会貿易経済部日台ビジネスアライアンス委員。(長内研究室ホームページ:www.f.waseda.jp/osanaia/

 


長内 厚のエレキの深層

グローバル競争や異業種参入が激化するなか、従来の日本型モノづくりに限界が見え始めたエレキ産業は、今まさに岐路に立たされている。同じエレキ企業であっても、ビジネスモデルの違いによって、経営面で大きな明暗が分かれるケースも見られる。日本のエレキ産業は新たな時代を生き延び、再び世界の頂点を目指すことができるのか。電機業界分析の第一人者である著者が、毎回旬のテーマを解説しながら、独自の視点から「エレキの深層」に迫る。

「長内 厚のエレキの深層」

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