幼稚園の先生を相手に
クッキーを販売する5歳児

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 筆者はマレーシアに住んでいるが、先日、同じマレーシア在住の知り合いの日本人夫婦から興味深い話を伺った。

なんでも商売に結びつけるメンタリティを持つのは、中華系だけでなくアメリカ人も同じ。日本人がグローバル競争で彼らと伍して戦うには、どうしたら良いのだろうか?

 その夫婦には5歳になる娘さんがいる。娘さんは現地の幼稚園に通っていて、そこには日本人は全くおらず、マレー系マレー人、中華系マレー人、インド系マレー人の子たちが入り混じっている。そんな中、その5歳の娘さんも、皆に交じって仲良くやっているという。

 それは結構な話なのだが、先日、娘さんのお友達数人を家に呼んで、皆でクッキーを焼いたのだそうだ。おいしそうなクッキーがたくさんできたので、そこにいるお友達だけではなく、幼稚園の先生にも分けてあげようと、先生たちに渡すためのクッキーを袋に詰めていたところ、中華系の女の子がこう言ったという。

「私ね。このクッキー、美味しそうにできたらから、先生に売ってくる!」 

 日本人のお母さんは、それを聞いてちょっとびっくりした。娘と同じ5歳児の女の子が、すでに先生相手に「商売」を考えているのだ。それだけではない。そのクッキーは、日本人のお母さんが、子供たちにお菓子作りの楽しさを教えてあげようとして開いた「ホームクッキングスクール」だった。材料から何から、彼女が全部自腹で用意してあげたものだ。

 そうやって作ったクッキーを先生に売るというのをお母さんが聞いたときには、さすがに、それは冗談だろうし、親がそんなことさせるわけないだろうと、思っていた。だが、なんとその子は翌日、本当に先生たちにクッキーを売りに行って「こんなにもらったあ」とお金を皆にみせていたというのだ。

 その子のご両親は中華系マレー人で、両方ともデザイン系の会社に勤めているそうで、ごく普通の(でもマレーシアの中ではちょっと裕福な)家庭だそうだ。

 その話が面白かったのは、マレーシアでの中華系のイメージにあまりにハマっていたからだ。マレーシアでは中華系は民族的にはマイノリティだが、経済的には強い。つまり、マレーシアの金持ちは大抵中華系である。

 その理由は、他の民族に比べて中華系が「商売がうまい」からに尽きる。中華系が一斉に休みをとる春節の時期には、普段大渋滞になるクアラルンプール都心が、お盆中の丸の内のように閑散とする。中華系が休むだけで、マレーシアの経済は停滞してしまうのだ。

 その一方で、やはりマレーシア内でも中華系は「金にうるさい」「がめつい」といったステレオタイプの印象も持たれている。良くも悪くも「商機」に敏感で、金になるならば何でもやるといったイメージがある。