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人工知能は私たちを滅ぼすのか
【第4回】 2016年3月24日
著者・コラム紹介バックナンバー
児玉 哲彦

人工知能とパソコンは同時に開発されていた
その逆転劇が今、始まる

実はほぼ同時期に、コンピューターの応用として構想されていた人工知能とパーソナルコンピューター。しかし、その後の発展には大きな差がありました。今、大きな注目を集める人工知能とは何なのか? どこから来て、この先何を変えるのか? それをコンピューター100年の進化論で読み解く新刊『人工知能は私たちを滅ぼすのか――計算機が神になる100年の物語』から、本文の一部をダイジェストでご紹介します。

パソコン産業の栄枯盛衰

 少し前の日経新聞電子版に、「パソコン苦境、見えぬ展望 東芝・富士通・VAIO統合」というラップのようなタイトルの記事が掲載されて話題になりました。

 いずれの企業も、かつてパソコンは世界で展開する事業であり、NECはその利益で港区に本社ビルを建てました(今では所有者が変わり、すでにNECのパソコン事業は中国メーカーの傘下となっています)。

 人工知能とパーソナルコンピューターは、同じコンピューターの応用としてほとんど同時並行に開発が進められてきました。しかし、その両者が世の中に広まったタイミングには大きな差が生じました。パーソナルコンピューターが広く普及して巨大な産業となるかたわら、人工知能は何度も行き詰まりを迎えます。

 ところが、上の記事のように、かつてはデジタルな宇宙の中心だったパソコンは、スマートフォンやタブレットなどの新型の機器の台頭によって、2011年をピークに市場が縮小しつつあります。

 一方で、人工知能はこの数年間に急激に注目を集め、各国の政府やインターネット企業らによって莫大な投資がなされ、今後の新産業として期待が高まっています。

 人工知能とパーソナルコンピューターは、影響を与え合いながら栄枯盛衰をたどってきました。今回は、その物語の入り口をご紹介しましょう。

【2030年の世界その3】
ノアの箱船

これまでの物語はこちらからお読みください
2030年の世界その1
2030年の世界その2

これまでのあらすじ
2030年、『人工知能の開発史』を卒論のテーマに選んだ女子大生のマリは、最も身近な人工知能である、アシスタント知能デバイス(A.I.D.)のピートとともに、100年におよぶシンギュラリティをめぐる旅に出た。そこで、人工知能の基本的な考え方を最初につくったチューリングという人物を知る。だが、チューリングは毒リンゴをかじって非業の死を遂げていた。まるで聖書の創世記で描かれた、最初の人間アダムとイブが、禁断の智恵の実をかじって追放されたように……。

「わたしは地の上に洪水を送って、命の息のある肉なるものを、みな天の下から滅ぼし去る。地にあるものは、みな死に絶えるであろう。ただし、わたしはあなたと契約を結ぼう。あなたは子らと、妻と、子らの妻たちと共に箱舟にはいりなさい」(旧約聖書 「創世記」6章17〜18節)
「生めよ、ふえよ、地に満ちよ」(旧約聖書「創世記」9章1節)

 神父はひとしきり私の話を聞いた後、しばし沈黙してから口を開いた。

 「そんなことがあったんですか、興味深いですね」

 「前に神父さまが話されていたのを思い出して」

 「確かに、智恵の実を口にしたアダムとイブは、禁を破って賢さを得たことで主の怒りに触れたとされています。私だって電気や車がなくなったら困りますから、人間が賢くなったことの恩恵を否定するつもりはありません。しかし、物事には限度というものがあります。機械に心を宿らせて、死人を生き返らせようなどというのは、やはり私には神をも恐れぬ所業に思えます」

 「私、なんだか怖くなっちゃって。たとえ恋人にもう一度会いたいという純粋な気持ちでも、やっぱりバチがあたるんでしょうか?」

 「主は私たちに限りない愛を与えてくださいます。しかし、私たちがその愛に背くようなことをすれば、容赦なく私たちを滅ぼすこともあります。例えば、聖書にある大洪水のように」

 「あ、聞いたことがあります。確かノアっていう人が、箱舟を作ったんですよね?」

 「そう。主はノアに箱舟、私たちはアークともいいますが、とにかくそれを作るように命じ、ノアの家族と、あらゆる動物のつがいだけを乗せて備えるように言いました。今の私たちはみなノアの子孫ということになります」

 「神さまはどうしてノアを選んだんでしょう?」

 「それはノアが信仰心が篤く、正しい行いを心がけた人だったからです。当時は主の教えに背くような悪い行いがはびこっていました。まあ、今の世の中も同じようなものですけどね。マリさんももっと信心深くならないと、アークに乗せてもらえませんよ!」

 私は神父と別れて、再びピート先生の講義に戻ることにした。神父と話していて、ふと浮かんだ疑問を口にする。

 「ねえピート、チューリングやノイマンがコンピューターを作ったのはわかったけど、ピートはホログラムで見た昔のコンピューターとは違いすぎて、同じコンピューターには思えない。私が小さい頃にパパが使ってた旧式のパソコンも、ピートみたいにしゃべったりできなかった。コンピューターを作った人たちはみんな人工知能を作ろうとしてたんでしょう? どうして最近まで人工知能はできなかったの?」

 「単純に簡単じゃなかったんだよ。そもそも今みたいに君たちの脳の仕組みもわかってなかったし、たとえわかったとしても僕らを作るのに十分なデータを用意したり、そのデータを処理するだけの性能が全然足りなかった」

 「そうよね、あんなに大きくてガチャガチャした機械じゃ大した仕事ができそうに思えない。でもパソコンはずいぶん小さくなって、スマホやA.I.Dが使われるようになる前はみんなが便利に使ってたよね。あんなに大きいコンピューターを普通の人が買って使うようになるなんて、誰が考えたんだろ」

 「それはね、ダグラス・エンゲルバートっていう人が作った、『アーク』っていう場所でできたの」

 アーク。その名前を聞いた瞬間、私は背筋に冷たいものを感じた。それってさっき神父が言ってた、ノアの箱舟の別名じゃないの?

反逆児たちがパーソナルコンピューターを生み出した

前回見たように、第二次大戦においてはコンピューターの助けもあってアメリカやイギリスに率いられた連合国が勝利しました。ですが、戦争の時代が終わったわけではありません。アメリカと並び立つ超大国ソ連は第二次大戦を無傷で終え、着々と共産主義の影響力を世界へ広げつつありました。

 ジョージ・オーウェルが全体主義に支配されたディストピアを描いた『1984』を書いたのはこの頃です。1950年代のスプートニク人工衛星の打ち上げ成功は資本主義陣営に衝撃を与え、宇宙空間までをその戦線に含む軍事技術の開発競争の口火を切りました。

 特に、ノイマンも関わった核兵器の開発が競ってすすめられ、世界は最終戦争による破滅の淵まで追いやられたのです。

 そしてコンピューターは、そのような冷戦の中で中心的な役割を担っていました。原爆の開発の計算には、IBMが開発したアナログの計算機が主に用いられていました。ノイマンは戦後IBMの顧問に就任し、世界のデジタルコンピューターの覇者となる礎を築きます。

 IBMはもともと政府の国勢調査のための計算機によって成長した会社で、計算機/コンピューターはこのように政府や大企業によって軍事や人間の管理に用いられる道具でした。IBMの大型コンピューターは、次第に中央集権的な体制による個人に対する抑圧のシンボルの一つとなっていきます。

 またこの時代、チューリングとノイマンの遺志を受け継いだ科学者たちは、コンピューターを用いて人工知能の実現を目指していきます。彼らはコンピューターで人の心を実現することにとても楽観的でしたが、あとになってみるとそれは自分たちの力への大きな過信でした。

 人工知能の研究は何度も行き詰まりにぶつかることになります。まるで失楽園のあとに地上に広まった人類が、神への畏れを失ったことから大洪水によって滅ぼされたように。

 人工知能の開発を襲った「大洪水」とはなんだったのでしょうか? そしてその洪水を乗り越えるために、エンゲルバートが造った「箱船」とは? さらにその後、私たちの世界をコンピューターで満たした「2の法則」とは、一体なんなのでしょうか?

 続きは『人工知能は私たちを滅ぼすのか 計算機が神になる100年の物語』本編でお楽しみください。

(第5回に続く 3/25公開予定)

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書籍『人工知能は私たちを滅ぼすのか』では、人工知能がどのように実現し、この先何を変えるのかを、テクノロジーと人間の関係をデザインするITの専門家が、100年にわたるコンピューターの進化の物語を読み解きながら、2030年に実現する世界と、その先に訪れる未来を描いた1冊です。この連載では、同書より本文の一部を抜粋して公開します。

「人工知能は私たちを滅ぼすのか」

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