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人工知能は私たちを滅ぼすのか
【第3回】 2016年3月23日
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児玉 哲彦

人工知能の生みの親は、
実は原爆の開発者でもある

連日、アルファ碁をはじめ、人工知能の進化がニュースとなっています。人工知能を正しく知るためには、コンピューターの歴史を知ることが大切です。人工知能の誕生をめぐる旅は、第二次世界大戦のさなかまでさかのぼります。一方同じ頃、広島と長崎に落ちる原爆の開発も行われていました。実は、世界の命運を分ける「核」と「コンピューター」は、同じ開発者から生まれていたのです。

人工知能とは何か? どこから来て、この先何を変えるのか? それをコンピューター100年の進化論で読み解く『人工知能は私たちを滅ぼすのか――計算機が神になる100年の物語』から一部をダイジェストでご紹介します。

未だに影を落とす1945年の核の光

 さる3月11日で、あの東日本大震災から5年という歳月が経ちました。津波によって一瞬で多くの方達の命が奪われてしまいました。その後、なんとか難を逃れた方たちの生活を破壊したのが、福島第一原発の炉心溶融と建屋の爆発事故でした。

 放射性物質の飛散がもたらした汚染により、16万5000人の方が避難を余儀なくされ、2016年になっても未だに10万人の方が避難生活を余儀なくされています。

 前日の10 日には、北朝鮮が今年に入って2回目のミサイル発射実験を行いました。北朝鮮の指導部は核兵器の開発の進展を公言するなど、日本の周辺で核による緊張が高まっています。

 核エネルギーくらい、人類が作り出してきたのテクノロジーの光と影を表すものはありません。核兵器の被害を受けた唯一の国である私たちは、70年が経っても未だにその恐怖を過去のものとできていません。

 この核兵器の開発のきっかけは、第二次世界大戦における兵器開発競争でした。そして、人工知能とコンピューターも、実はまったく同じ背景で、しかも共通の人たちが関わって開発されました。人工知能がどこからやってきたのかを知るうえでは、あの戦争の中で何が起こったのか、知る必要があります。

【2030年の世界その2】
禁断の智恵の実

「2030年の世界その1」はこちらからお読みください

これまでのあらすじ
2030年、都内のJ大学に通う女子大生のマリは、ひょんなことから卒論のテーマを「人工知能の開発史」にした。もはやスマホはほとんど使われておらず、アシスタント知能デバイス(A.I.D)と呼ばれる人工知能が一般化している。でも、A.I.D.はどうやって実現したのだろうか? マリのそばで人間のように振る舞うA.I.Dのピートを見ながら、ある疑問がマリの中で浮かんできた。――私たちは、心を作れるんだろうか?

「神は『光あれ』と言われた。すると光があった。神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた」(旧約聖書「創世記」1章3〜4節)
「主なる神は言われた、『見よ、人はわれわれのひとりのようになり、善悪を知るものとなった。彼は手を伸べ、命の木からも取って食べ、永久に生きるかも知れない』」(旧約聖書「創世記」3章22節)

 私はさっそく大学のメディアセンターに向かった。ゲートの前で立ち止まると、一呼吸置いてから開く。ピートを通して私が学生だと認証した。

 私はコーヒーをいれて、隅の方の席に陣取った。何もないテーブルの上にホログラムを浮かびあがらせる。

 「さてと、さっさとやっちゃいたいんだけど。中嶋先生も言ってたけど、人工知能の歴史ってそんなに長くないんでしょ? じゃあ、最初にコンピューターと人工知能を作った人について教えて」

 「コンピューターみたいに複雑なものは、誰か一人を発明者って言い切るのは難しい。ある時代に、たくさんの人たちが関わって作ってきたものだからね。それでも誰か一人挙げるとしたら、アラン・チューリングっていうイギリス人かな。チューリングは今のコンピューターと人工知能の基本的な考え方を作って、当時のナチスドイツとの戦争でも大きな役割を果たしたんだ。今でもチューリングの名前は、コンピューターの世界のノーベル賞といわれるチューリング賞なんかに残ってる」

 「へー、そういう人がいるんだ。きっとグーグルの創業者やA.I.Dの発明者みたいに、大金持ちになってイケイケだったんでしょ?」

 「それがそうでもないんだ。チューリングは不遇な晩年を過ごして、最後は自分で毒リンゴをかじって亡くなったって言われてる」

 「だってコンピューターを発明した人でしょう? その人がどうしてそんな可哀想なことになっちゃうわけ?」

 リンゴをかじって死んだ。どこかでそんな話を聞いたことがある気がする。あれはそう、ハビエル神父に勧められて、あんまり興味がなかったけど参加した聖書の勉強会だ。

 確かエデンの園で神様につくられた人間は、悪い蛇にそそのかされて禁断の智恵の実をかじったことで、エデンの園から追放された。その智恵の実って、リンゴじゃなかったっけ。

コンピューターの開発が世界の命運を分けた

 1945年、アメリカのニューメキシコ州ロスアラモスの国立研究所で、世界の運命を変える実験が行われました。キリスト教における「三位一体」を意味するトリニティと呼ばれたこの実験が実施されると、16キロ離れた観測所でも爆発の閃光に目がくらみそうになり、その後で巨大なキノコ雲が立ち上りました。

 それは一カ月も経たないうちに広島と長崎に投下され、太平洋戦争を終結させるとともに大変な悲劇をもたらした原子爆弾が、初めて爆発した瞬間でした。

 この様子を固唾をのんで見守っていた人物がいます。核爆発を実現する計算を行った、数学者のジョン・フォン・ノイマンです。彼はまた、爆弾の計算のために今日使われているほとんどすべてのコンピューターの方式、ノイマン型コンピューターにその名を残す、コンピューターを発明した一人でもあります。

 このように、コンピューターが作り出されたのは、世界を覆った第二次世界大戦の混乱の中でした。1930年代の前半のドイツでナチスが台頭し、国内に独裁的な体制を確立すると、1939年にポーランドへの侵攻を行い、第二次世界大戦の口火が切られます。

 1940年には日独伊三国同盟が成立、その翌年には日本の真珠湾攻撃によりアメリカが参戦することになり、世界は戦乱の渦へと突き落とされていきました。

 この第二次世界大戦の結果には、先ほどの原子爆弾の開発のための計算のように、コンピューターが決定的な影響をおよぼしました。そのもう一つの例が、暗号の解読でした。

 ドイツは、当時世界最高の性能を誇る暗号装置「エニグマ」を用いて通信を暗号化していました。ピートが言っていた、ノイマンと並ぶもう一人のコンピューターの発明者アラン・チューリングがコンピューターを用いてこのエニグマを解読したことが、連合国が勝利した大きな要因の一つとなりました。

 チューリングとノイマンがコンピューターで実現しようとしたことには共通点がありました。それは爆弾と暗号装置という違いはあるものの、他の機械がどう振る舞うかをシミュレーションして、予測をするということです。

 特にチューリングは、そうした考える力を持ったコンピューターは、やがて人間を超えるほどの知能を獲得するだろうと予言しました。ここに、人工知能の歴史が始まったのです。

 しかしその結果、チューリングとノイマンは二人とも非業の死を遂げることになります。

 デジタルの天地を創造した「分ける」ことの力とは、一体なんでしょうか? 原爆の発明者が、原爆よりも恐ろしく歴史を変える力を持つと言った「怪物」とは? そしてチューリングがかじった「禁断の果実」とは?

 続きは『人工知能は私たちを滅ぼすのか 計算機が神になる100年の物語』本編でお楽しみください。

(第4回に続く 3/24公開予定)

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