日本酒は、麹菌と酵母という微生物の共同作業「発酵」によって造られる。

 米麹の酵素が白米のデンプン、タンパク質、脂肪を分解する一方で、酵母はブドウ糖からエチルアルコールと炭酸ガスを生成する。

 酵母はレモンのような形状をした約5~10μ(ミクロン)の大きさで、自然界では果実や樹液、花の蜜などに多く生息している。ひと口に「酵母」といっても多種多様な種類があり用途もさまざまだが、酒造りにおいては清酒酵母、ビール酵母、ワイン酵母、ウイスキー酵母などが使われる。とりわけ「清酒酵母」は低温でもよく発酵し、アルコールの生成能力と耐性がきわめて高く、代謝産物として造り出された香味が優れていることが特徴である。

 吟醸酒から立ち上る、えもいわれぬフルーティな香りは酵母の働きによるものなのだ。

吟醸香と吟醸酵母の
ただならぬ相関関係

「九郎左衛門」「富久鶴」など、地元・米沢では複数の銘柄を持つ「雅山流」

 かつて日本酒といえば、酒質の安定と発酵力に重きが置かれて酵母が選ばれていた。ところが、やがて吟醸酒が市場に出回るようになり市民権を得ると、特有の芳香を放つ吟醸酵母に注目が集まるようになった。

 吟醸酵母の香りが注目されるようになったのは、1946年に長野県・宮坂醸造から分離された「協会7号」(通称「真澄酵母」)以降といわれる。その後、53年頃に熊本県酒造研究所から分離された「協会9号」(通称「熊本酵母」)は華やかな吟醸香を放ち、低温でも発酵力が旺盛で酸の生成が少なく、醪(もろみ)の日数も比較的短いことから75年頃から吟醸酵母の主流となる。

 やがて(全国新酒鑑評会への出品数では)89年をピークに往時ほどのプレゼンスは失われたものの、現行の吟醸酒スタイルを確立した重要な酵母といえる。

 また、96年に金沢国税局鑑定官室から分離された「協会14号」(通称「金沢酵母」)は生成される酸が少なく、きれいな味の仕上がりとなる。9号と比較すると香りも穏やかなことから食中酒としての適性が評価されるなど、酒造関係者からの信望は厚い。