DIAMOND CFO FORUM

日本企業初のCFOに学ぶ実践知【後篇】
CFOは企業価値と理念の守護神である

伊庭 保・元 ソニー CFO

――つまり、CFOとしてCEOに事実を突きつける、という役割もあるわけですね。コロンビア映画を買収した時も、出井CEO時代の混迷の時も、もっと事実を突き詰めなければならなかった。

 はい、まさしくそうです。

――東芝の不正会計事件もそうですね。

 きちんと事実を見ていなかった、現実と向き合っていなかったのではないでしょうか。東芝をはじめ、一連の企業不祥事は、つくった計画に引っ張られ、弥縫策(びほうさく)に終始した結果のように見えます。

 CFOたる者、「デュー・プロセス、デュー・ディリジェンス」(公正かつ適正なプロセスを踏んで、万全の注意を払って行われる調査・審理)が欠けている経営の意思決定には企業価値を損なうリスクが潜んでいることをたえず意識していなければならないと、私は考えています。

――結果がすべてとか、成果主義とか、企業では数字さえ上げればいいんだと考えがちで、最近のCFOは計数管理のゲシュタポみたいになっていませんか。

 計数管理をあまりガチガチにはめ込むと、肝心なことを見失いがちです。経営環境の変化とか、競争の激化などはわかっていても、ビジネスとしてどのような可能性やリスクがあるのか、それが自分の会社にどれだけ跳ね返ってくるのか、という現実の分析がおろそかになって、楽観的な見通しに寄りかかってしまうのです。また、短期的な赤字を理由に不採算部門を切り捨て、将来の芽を摘んでしまうこともあります(注2)

――そういえば、出井さんが肝煎りで導入したEVA(経済的付加価値)も、うまくいきませんでした。

 その頃、私は出井さんに敬遠されていたから、いっさい相談に乗っていないのですが、資本コストを認識させるのはたしかに重要ですけれども、最強の経営ツールであるかのように振る舞ったため、肝心なビジネスの本質を見失わせてしまった、と思います。

 資本コストに注目させるならば、ほかにもいろいろ手法があるので、それぞれの事業部門の現場と話し合って、資本コストがどう重要なのかを伝え、彼らが受け入れられる方法を採用すればよかった。EVAがわからなければバカだといったやり方では、みんなの反発を招くだけでした。

――去年、ソニーにいろいろ提言をされましたが、その後をどう見ていますか。

 技術系執行役員と業務系執行役員が増えたことは評価できますが、生え抜きの技術系取締役が一人もいません。提言の中では、技術系取締役を選任することを強調しています。また、「企業理念」を明らかにすることも求めています。しかしながら、何の進展もありません。

 2015年、コーポレートガバナンス・コードが公表され、そこでは、コードの実施状況について報告書を提出することになりました。「情報開示の充実」の項に「会社が目指すところ(企業理念)や経営戦略、経営計画」が挙げられています。

 ソニーの報告書では、「当社は、コードの各原則を実施しています」とあるが、どこにも「企業理念」は見当たりません。もっとも「ミッション」を掲げていますが、これは「企業理念」(ビジョン)とは別物です。設立趣意書は、CSRの源流として位置づけられています。間違いとは言いませんが、設立趣意書は「企業理念」の源流なのです。

 他社の報告書を見ると、当然ですが、企業理念や経営理念の説明にそれなりの字数が割かれています。ソニーの取締役会と経営陣は、中期計画があれば十分としているのかもしれません。しかし、ビジョンなき経営では、サステナビリティ(持続可能性)を担保できるとは思えません。

 それから、後継者育成プランも明らかにしていないなど、コードの全面実施といいがたいところも見受けられます。

 ソニーの報告書を読むと、ソニーはコーポレート・ガバナンスの後進国になってしまった、と感じます。おこがましいですが、取締役会と経営陣は、ソニー・グループの経営とは何か、原点に戻り、思いをめぐらしていただきたい、というところです。(終)

注2)1992年危機の最も苦しい時期に、伊庭氏はゲーム機事業への参入を“CFO”として支援している。一介のエンジニアだった久夛良木氏の夢に「十分な説得力と可能性がある」と判断してのことである。そして、ソニー・ミュージックを今度は伊庭氏が説得し、合弁でソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)を1993年に設立する。

(構成・まとめ/森 健二)

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「トップ・マネジメントの教科書」CEOとCFO その新しい関係

グローバル経済の本格化によって、歴戦のビジネスパーソンの経験と勘は裏切られる可能性が高まった。トップマネジメントは、リスクを洗い出し、測定し、定量化し、それを踏まえて経営戦略を説明できなければいけない。その際、CEOはCFOの力を借りずしては考えられない。CFOには経営陣の中で論理的な判断のよりどころとなり、CEOを補完すると同時に、戦略志向やビジネスリテラシーも求められている。新しい時代のCEOとCFOの関係はどうあるべきかを求め、取材した。

「「トップ・マネジメントの教科書」CEOとCFO その新しい関係」

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