DIAMOND CFO FORUM

21世紀の尊敬される企業【後篇】
「日本的経営」を大切にしながらグローバル競争で勝利する

榊原清則・中央大学ビジネススクール 教授、慶應義塾大学 名誉教授

日本企業は
有利なポジションにある

――「株主の利益とステークホルダーの利益」「利益を創造する機構と人々が集まるコミュニティ」「文明と文化」「グローバルとローカル」など、このように一見すると相対立する二面性を受け入れ、それをバランスさせる、あるいは超越する経営を具現化するために、経営者には何が求められますか。

 言うまでもなく、経営者は出資者から経営の執行を委ねられた存在であり、それゆえ受託者責任を負っています。これは、グローバル・スタンダードです。

 日本企業の経営者は、「社員が安心して働ける会社にしたい」とよく言いますが、これは人間の集団としての会社を意識したものです。これは日本に限ったことではないでしょうが、そうした責任を感じてしまうことこそ、日本の会社の文化の一つでしょう。

 日本企業の経営者の多くが内部昇進者です。法的には株主の利益を代表する存在ですが、その半面では従業員の代表でもあるわけです。それゆえ、人間の集団、社会コミュニティとしての会社という側面について、日本の経営者は、アングロサクソン型経営に慣れ親しんだ欧米の経営者よりも深い理解の持ち主のはずです。

――そうあってほしいものです。

 たしかにそうですね(笑)。

 さて、こうした生え抜き経営者は、もちろんしかるべき実績を残した人物であり、また社内政治の勝利者です。ですが、それも一企業内での話です。それゆえ、とりわけ資本市場の論理を掌握しそれに対応するのが不得手です。

 一方、いわゆる「プロ経営者」たちはオープンな競争でしのぎを削ってきた人たちで、当然ながら株主や投資家など資本市場の論理をよく理解しています。ですから、そこからのプレッシャーに対して敏感です。しかし、社内の声や感情には疎かったりします。

 いずれにしても、企業の二面性から考えれば、両者とも一長一短あるわけです。

――つまり、どちらも偏っていると。

 全世界、ほとんどの企業がそうでしょうね。ただし、この二面性をバランスよく両立できるかどうかという点では、日本企業に分があるのではないかと私には思えます。

 たとえば、経営者が生え抜きであることです。サラリーマンの成れの果てだから、事なかれ主義で、リスクを取らないとかいわれがちですが、実際には、生え抜きであることが原因ではありません。

 生え抜きだからこそ、昨日まで一緒に同じ釜の飯を食べてきた従業員の気持ちがわかるし、こうした人間力はその組織における経験の長さと幅に依存するもので、一朝一夕にはいきません。

 アングロサクソン型のプロ経営者が得意とすること、たとえば財務体質の改善、事業の取捨選択や再生、オペレーションの再設計、M&Aなどは、すでに方法論が確立されていますし、その道の専門家もたくさんいます。後は覚悟と決断の問題でしょう。

 また、日本の資本市場では、欧米の資本市場ほど四半期業績へのプレッシャーは強くありません。それゆえ、経営者の裁量の幅は相対的に広いと考えられます。

 さまざまなステークホルダーの利害を調整・バランスさせることがこれからの経営者の役割であるならば――もちろんそれは一筋縄ではいきませんが――日本企業のほうが上手にやれるんじゃないでしょうか。

――東芝の問題は、利益のかさ上げをするために、歴代3人の社長が不正会計を指示したことに端を発したものですが、経営者の権力や裁量が大きいと、独善的になりやすいことをまさに示しています。

 企業に限らず、誰かに権力が集中すると、大なり小なり、組織の私物化が起こります。そのため、知らずしらずのうちに、自分に都合のよい意思決定を下しがちです。個人であれ集団であれ、自分のことは案外わかっていないもので、だからこそ抑止力なり外圧なりが必要です。

 とはいえ、コーポレート・ガバナンスの目的が、株主への利益還元に偏ってしまっては、あまり抑止力にはならないでしょう。むしろ、相対立するステークホルダーの利害を調整するという難問に取り組むことで、効果的なガバナンスが実現するように思います。

 これまで、経営モデルにしろ、ガバナンスにしろ、株主か従業員か、短期か長期か、利益か成長かなど、二項対立で議論されてきました。しかし、会社の二面性という視点からそれらを問い直すことで、どちらも必要であり、両立させる方法を見出すことが、世界から尊敬される優秀企業への道なのではないでしょうか。そして、これが21世紀の先進的経営の姿だと、私は考えます。(終)

(構成・まとめ/立崎 衛)

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グローバル経済の本格化によって、歴戦のビジネスパーソンの経験と勘は裏切られる可能性が高まった。トップマネジメントは、リスクを洗い出し、測定し、定量化し、それを踏まえて経営戦略を説明できなければいけない。その際、CEOはCFOの力を借りずしては考えられない。CFOには経営陣の中で論理的な判断のよりどころとなり、CEOを補完すると同時に、戦略志向やビジネスリテラシーも求められている。新しい時代のCEOとCFOの関係はどうあるべきかを求め、取材した。

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