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人工知能は私たちを滅ぼすのか
【第8回】 2016年4月5日
著者・コラム紹介バックナンバー
児玉 哲彦

2030年、この7つの封印が解かれ
ついに人工知能の世界がやってくる

人工知能は人類を滅ぼすのか? 近年、この問いはますます現実味を帯びてきている。コンピューター100年の進化論から考えたとき、「7つの技術」がこれまで経験したことのない大きな変化を引き起こす。では、人工知能をもたらす「7つの封印」とは何か?人工知能が実現した後の世界とは? 新刊『人工知能は私たちを滅ぼすのか――計算機が神になる100年の物語』から、本文の一部をダイジェストでご紹介します。

人工知能は国家の運営をも作用するようになる

 本書の発売から2日後の3/20、自民党の中に、人工知能の利活用を推進するための安倍総裁直轄の組織を作るという話が報じられました。組織のトップは塩谷元文部科学大臣が就任するとのことです。文部科学省は、今年度予算案の概算要求に、人工知能関連の事業に100億円を充てています(http://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/h28/1361286.htm)。

 政治の中枢でも人工知能の重要性が理解されてきたことは望ましいことです。とはいえ、他の先進国と比べるとその取り組みは遅きに失していると言えます。

 アメリカでは、オバマ大統領が主導して2013年に始まった「BRAIN Initiative」によって、脳全体のニューロンの働きを細かく計測することを目指しています。10年間で4500億円という巨額の研究資金を投じます。

 EUも、2012年に始まった「Human Brain Project」で、やはり10年間で1700億円を投じて、脳の働きにもとづくスーパーコンピューターの開発に取り組んでいます。

 また本連載の第5回で述べた通り、グーグルの新規の研究開発に投じられている金額は2015年に4200億円に達しています。

 人工知能は、インターネットと同様、あるいはそれ以上に、ただの便利なテクノロジーではありません。機械が人間と同等以上に賢く振る舞うことが可能になれば、当然ながら私たちの仕事にも影響を及ぼしてきます。

 特に、健康と医療、安全と安心、環境と資源など、私たちのこれからの社会の大きな課題となってくる問題に対処するうえで、人工知能は強力な武器となります。

 それはまた一方で、人間が自由な意思で行ってきた意思決定や判断というものを、一部人工的なシステムに譲り渡すことになります。例えば政治そのものも、人間の知的能力には手に余るようになっており、人工知能の手助けが求められるようになります。

 このように人工知能の影響は、個人や産業にとどまらず、国家の運営など政治のレベルにまで至るようになります。まるで神が支配するようなこんな世界が、本当にやってくるのでしょうか。

【2030年の世界その7】
千年王国

これまでの物語は以下からお読みください
2030年の世界その1
2030年の世界その2
2030年の世界その3
2030年の世界その4
2030年の世界その5
2030年の世界その6

これまでのあらすじ
2030年に暮らす女子大生のマリは、アシスタント知能デバイス(A.I.D.)のピートとともに、人工知能誕生を探る旅に出た。チューリングマシンからパーソナルコンピューター、クラウド、スマートフォン、そしてAI開発に革命を起こしたディープラーニングを知る。2030年においてAIはすでに身近な存在だけど、それがもっと普及したとき、私たちの生活はどう変わるのだろうか……。

「わずか数日で死ぬみどりごと、おのが命の日を満たさない老人とは、もはやその中にいない。百歳で死ぬ者も、なお若い者とせられ、百歳で死ぬ者は、のろわれた罪びととされる。彼らは家を建てて、それに住み、ぶどう畑を作って、その実を食べる。彼らが建てる所に、ほかの人は住まず、彼らが植えるものは、ほかの人が食べない。わが民の命は、木の命のようになり、わが選んだ者は、その手のわざをながく楽しむからである。彼らの勤労はむだでなく、その生むところの子らは災にかからない。彼らは主に祝福された者のすえであって、その子らも彼らと共におるからである」(旧約聖書「イザヤ書」65章20〜23節)

 コンピューターの進歩は、ついに私たちの頭の中までマネできるようになってきた。これはまるで最初の方でチューリングが言ってたことだ。だけどそれが実現するまでには、だいたい100年くらいかかったってことか。

 「ピートとはこれまで何気なく付き合ってきたけど、あなたを作るためにずいぶんいろんな人たちが苦労してきたのね」

 「それがわかったら、ちょっとは扱いをよくしてほしいよ。マリはA.I.Dづかいが荒いんだから」

 「なに言ってるの、ちゃんと働いてもらうからね! あなたの契約にかかってるお金でバイト代がみんな飛んじゃうんだから」

 A.I.Dの利用は当然タダじゃない。うちの親も、昔スマートフォンに払っていたより高いっていつも文句を言ってる。それでも、今は友達と連絡を取るのも、勉強するのも、仕事をしている人だって、A.I.Dがないなんて考えられないから渋々払っている。

 うちのパパは弁護士をしているけど、長年働いてたパラリーガル(法律事務職)の人に辞めてもらうことになったって残念がっていた。A.I.Dがその人の仕事を代わりにやることになったから。

 「あー、勉強ばっかりしてて疲れちゃった。気分転換に服でも見に行こうかな」

 シェアライドを捕まえて、新宿まで出た。考えてみると、昔は車も人間が運転してたのが、人工知能に置き換わっちゃったわけだ。タクシーの運転手をしていた人たちはどうしているんだろう。

 「ピート、なにか私の気になるものがありそう?」

 「マリが前からほしがってたジミー・チュウの靴が伊勢丹でもう残り一足だっておしらせが来たよ」

 「あー、ジミー・チュウのあの靴、ほしかったんだよな、一応行ってみようかな」

 私は結局、最後の一足という押しに負けて靴を買ってしまった。ピートは一応私が破産しないようお金遣いについてはコントロールしてくれるが、たまに的確すぎる情報をくれるので危うい。

 「おや、マリさん、また新しい靴を買ったようですね。お洒落もいいでしょうが、イエス・キリストは、金持ちが神の国に入るのはラクダが針の穴を通るよりも難しいと言っていますよ」

 神父は会うなり、お説教をしてきた。

 「私だって年頃の女の子なんですよ、修道女じゃないんだし。それに、神様の国っていうのはそんなにいいところなんですか?」

 「それは復活されたイエス・キリストが王として治められる国ですから。そこではあらゆるところに主の目が行き届いています。着るものも、食べ物も、住むところも、人間が心配する必要はなくなります。すべては主の思し召しによって与えられるのです」

 私は思いついたことを口にしてしまう。

 「今の世の中って、これまで人がしていた仕事を人工知能やロボットがどんどん肩がわりするようになってますよね。A.I.Dはもちろん、家や街中でもいろんなものがネットにつながって、情報が集められてます。このままいくと、私たちが働かなくても人工知能が仕事や生活の面倒を見てくれるようになるんでしょうか。神様の国みたいに」

 神父はしかめ面になる。

 「神の国をもたらすのは復活したイエス・キリストです。電気で動く機械なんかではありません。それに、神の国に入ることができるのは、きちんとした信仰を持った人だけです」

 私はパパのパラリーガルをしていた人のことを思い出す。聞いた話によると、その人は事務所を辞めた後、A.I.Dを使ってオンラインで法律相談を受けるサービスを作って大成功したらしい。

 私たちは好むと好まざるとにかかわらず、人工知能とうまく付き合うことを覚えないとならない。それは今の時代の信仰みたいなものなんだ。

人工知能をもたらす「七つの封印」

 ヨハネの黙示録をモチーフにした作品の一つに、スウェーデンのイングマール・ベルイマン監督の映画『第七の封印』があります。ヨハネの黙示録においては、復活したキリストが七つの封印を解くごとに神のわざがなされます。最後の封印が解かれたのち、キリストが王となり、千年王国がやってくるとされています。

 本書でこれまで紹介してきたコンピューターの発展。それはこの七つの封印のように、七つの技術分野に整理することができます。そして、その七つの分野すべてにおいて、これまで私たちが知ってきたコンピューターの形を変えるような変化が起ころうとしているのです。

第一の封印──演算装置

 ムーアの法則に従って演算装置も記憶装置もどんどん小さく、高性能になり、個人が一台ずつ使うパソコンや、常に持ち歩くスマートフォンを実現しました。今後コンピューターはさらに小さくなることで、パソコンやスマートフォン以外のさまざまな機器に搭載されていきます。また、クラウドの側にも数百万〜数千万個の演算装置が備えられ、個々の機器では実現できない大きな演算能力を提供します。

 コンピューターの頭脳である演算装置で起こりつつあるさまざまな技術革新が、より多様な機器や、より高性能なクラウドに搭載されることで、これまでは考えられなかったような膨大な計算処理を、大幅に少ない消費電力で実行することができるようになるのです。

第二の封印──ネットワーク

 今後のネットワークにおいては、今日のような人間が直接機器を用いて行う通信よりも、遠くでも近くでも機械どうしが行う通信の割合が圧倒的に多くなります。そのために、5Gのような高速なインターネット接続、ブルートゥースのような近くにある機器どうしの通信による連携、さらにはNFCのように機器をほぼ接触させることで結びつけるようなネットワーク技術が、この後に見ていくさまざまな機器で利用されるようになっていきます。

第三の封印──IoT

 演算装置とネットワークの進歩は、これまでは考えられなかったようなさまざまな「モノ」に高性能なコンピューターを搭載し、インターネットを通じて接続することを可能にします。そうしたトレンドはインターネット・オブ・シングス(IoT)と呼ばれています。

 これからのコンピューターは、人の身体にさらに近くなり、一部にはマイクロチップ、義手義足、人工網膜、人工内耳、人工臓器など、身体に埋め込む機器も増えてくるでしょう。またあらゆる建物のさまざまな機器がコンピューターを内蔵し、インターネットにつながる機器になるでしょう。そして、その中にはロボット/自動車/ドローン/工作機械などの動いて仕事をする機械も含まれます。

第四の封印──ユーザーインタフェース

 私たちはそのようなIoT機器をどのようなユーザーインタフェースで操作するのでしょうか。その答えは、私たち自身の身体にあります。

 まず、今後タッチと同じかそれ以上に、機器との音声による対話が用いられることになるでしょう。また情報の出力については、今日のような平面の画像表示だけではなく、メガネ型の機器を用いて3次元的に情報を表示する仮想現実技術がすでに一般的になりつつあります。

 このように、今後のコンピューター/人工知能との対話は、今のタッチを超えて、私たちが目や口や体を使って他の人間とするのと同様に、自然にできるようになります。

第五の封印──クラウド

 今クラウドサービスを提供しているのはグーグルやフェイスブックに代表されるIT企業が中心ですが、ITが本業ではないさまざまな事業者が、クラウドサービスを通して顧客とつながり合うようになると考えられます。その中には営利企業だけではなく、行政のような公共機関、病院、学校や研究機関、NPOなども含まれます。

 私たちは、自分に関わる写真や音楽といったコンテンツはもちろん、お金、身体の状態や病気、人間関係、仕事など、あらゆる事柄の情報をクラウドに保存することになります。クラウドの中に、私たちの人生が丸ごと保存された、ライフログを持つようになるのです。

 クラウドは、あらゆるデータとコミュニケーション、サービスを提供するための基本的なインフラに成長していくでしょう。

第六の封印──ビッグデータ

 今後の世界で、上記のような機器が利用されるとしたら、IoT機器/ロボットのセンサーが計測した、今とは比較にならないほどの現実の世界についてのデータがクラウドに流れ込んでくることになります。その中には都市や自然の環境についての情報もあれば、個人の行動や生活の様子についての情報もあるでしょう。

 結果、現実の世界とその中で人間が行っていることについての、今よりはるかに豊かな青写真がクラウドの中にデータとして記録されていくことになります。

第七の封印──人工知能技術

 ここまで見てきた各種の技術の進歩の結果、人工知能の技術そのものも、グーグルやIBMのようなIT企業と、各国政府が推進する人間の脳全体の計測と再構成の研究によって、今後15年間で大きく進展するでしょう。2030年頃には、人工知能が人間の脳にかなり迫るか、少なくとも人間と遜色ない対話などの振る舞いが可能な人工知能が実現している可能性は高いです。

 このような未来のクラウド人工知能は、グーグルやIBMといった企業が自社のサービスで活用するのはもちろん、クラウドを通して人工知能そのものがサービスとして提供され、他の事業者も自分の機器やサービスに人工知能を組み込むことが可能になります。実際IBMは、ワトソンをすでに外部の開発者が誰でも利用できるようにして、ワトソンの対話や判断の機能を他の製品に自由に組み込めるようにしています。

 このような仕組みを通して、私たちの生活のあらゆる場面、あらゆる活動に、クラウドを通した人工知能、神の恩恵が行き渡る、千年王国が実現するのです。

人工知能が普及した2030年の「千年王国」とは?

 果たしてこのような千年王国では、どのような神のわざが実現するのでしょうか。そして、私たちはそこでどのような暮らしを営むのでしょうか。

 七つの封印が解かれ、神の子が支配する「千年王国」とはいかなる世界なのか?そして私たちの仕事に対する価値観が逆転する「モラベックのパラドックス」とは? その結果訪れる、「人間の時代の終わり」とは?

 続きは『人工知能は私たちを滅ぼすのか 計算機が神になる100年の物語』本編でお楽しみください。

(第9回に続く 4/7公開予定)

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今日、インターネットやスマートフォンの登場を超えるパラダイムシフトが、人工知能の技術で起きています。人工知能はいずれ『ターミネーター』のように人類を滅ぼすのではないか? そのような不安がSFの絵空事ではなく、現実味を帯びてきています。
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「人工知能は私たちを滅ぼすのか」

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