神奈川県・相模原市に住む桑田温子さんは5年前、愛車のランドクルーザーを盗まれた。今年5月、その盗まれた車が意外な場所で発見された。アフリカ・ケニアの首都ナイロビ。自動車の部品販売店を営む男性が中古車販売店から購入していた。愛車の写真を見せると、桑田さんは息をのんだ。
「私の車に間違いありません。でも、雪道でも乗れる車が欲しかったので寒冷地仕様にしたはずなのにアフリカにあるなんて、不思議ですね」
と首をかしげるばかりだった。
いま、日本で盗まれた高級車が、遠い異国の地で発見されるケースが相次いでいる。その主役となっているのが多国籍窃盗団。彼らは「最強」と呼ばれている盗難防止システムをいとも簡単にやぶり、国際的なネットワークを駆使して海外に売りさばいている。窃盗団は一体どうやって車を盗み、アフリカに転売したのか。
盗んだ車は5年間で650台!
最強の盗難防止システムも簡単に突破
追跡を始めたのは今年2月。名古屋市で起きたある事故がきっかけだった。日系ブラジル人の男が、車で3人の歩行者をはね、死亡させたのだ。警察がこの男について調べたところ、思わぬ事実が明らかになった。3年前に摘発された国際的な自動車窃盗団の一味だったのだ。
犯行グループは、ブラジル人やアフガニスタン人など総勢49人。極めて大規模なものだった。盗み出した車は、5年間で650台。被害総額は18億円にものぼる。車を盗むのは主にブラジル人。盗んだ車は、一旦保管庫に運ばれ、アフガニスタン人などの手で海外に運びだされていたとみられている。
窃盗団は、イモビライザーがついているランドクルーザーやスカイラインなどの高級車を狙って盗み出していた。イモビライザーとは、キーに登録された固有のIDコードと、車両に登録されたIDコードを電子的に照合し、一致すればエンジンを始動させる盗難防止システム。現在、新車の4割に装着されるまで普及がすすみ、自動車の盗難件数を5年で半分以下に減らす劇的な効果をあげている。
窃盗団が犯行に使っていたのは、イモビライザーの車のエンジンを動かすのに必要な2つのコンピューターの基盤が組み合わされた装置。別の車から取り出した3つのコンピューターを1つにまとめ、それを車の電気配線につなぐことで、イモビライザーをやすやすと解除していた。福井市内で車の鍵の修理業を営む小川敏伸さんは、こう推測する。
「鍵そのもののシステムを着せ替えてしまうという形ですね。こういった物をつくってしまえば、数分程度で車を盗めてしまうのではないか」
窃盗団が悪用したこの装置は、誰がどうやって作ったものなのか。取材班は、イギリスに飛び、世界各国の盗難事件を調べ、手口を分析する防犯コンサルタント会社を訪ねた。