経営の主導権めぐる権力闘争、カリスマの奇妙な勝負

 セブン&アイ・ホールディングスの「お家騒動」が表面化した。鈴木敏文会長(CEO)が提案した、同社傘下のセブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長を更迭する人事案は、賛成が過半数に満たなかったことで、4月7日に行われた取締役会で否決された。この結果を受け、鈴木氏は、次の株主総会で会長を辞任し、その後の経営体制には加わらないと、記者会見で表明した。

カリスマ経営者の突然の辞任発表だった Photo by Hiroyuki Oya

 この記者会見で、鈴木氏は、井阪氏の経営手腕を徹底的に批判するのと共に、自分が信任されなかったことの背景として、創業家で約10%の株式を持つ伊藤家の「世代交代」を示唆した。

 当事者の証言を直接聞くことが難しいので、正確な背後の事情は推測するよりないが、本件は、伊藤家及び井阪氏サイドと鈴木氏との間の経営の主導権を巡る権力闘争だったのだろう。筆者には、経営者としての圧倒的な力量と実績をもってこれまで会社を支配して来た鈴木氏を、同氏の「暴走」をきっかけに、伊藤家・井阪氏サイドが排除することに成功しつつあるように見える。

 鈴木氏は、コンビニエンスストアという業態を作り上げてきた、わが国の経営史に残る経営者の一人だ。われわれの生活に大きな(プラスの)影響を与えたという意味でも、経営とマーケティングのアイデアと実践の意味でも、わが国の経営史で、彼は、実質的に歴代ナンバーワン経営者であるのかも知れない。その彼が、会社が自分の意向を通すか、そうではないかを通じて、自分が会社を主導できるか否かを問うたのが、今回の人事案であり、権力闘争だった。しかし、今のところ筆者には、この勝負に、鈴木氏が敗れたように見える。

 もっとも、セブン-イレブンのあれこれを全て主導してきた鈴木氏が、いきなり「引退」を宣言したことが、フランチャイズ店のオーナーたちや個々の社員の想定外の動揺につながる可能性もある。セブン-イレブンの「鈴木敏文依存」があまりに強力であった場合、現在の形勢がひっくり返って、鈴木氏が退任を撤回する可能性もわずかだが残っていよう。勝負は未だ完全決着したわけではない。