ソフトバンクの孫正義社長の口ぐせの一つは、「世間が“麗しき誤解”をしているうちに事を進めよ」である。皆が本当のことに気づかないうちに、という意味だ。
7月27日、日本最大手のポータルサイトのヤフー(日本法人)は、世界最大手の検索サイトの米グーグルと提携すると発表した。
端的にいうと、グーグルが最新の技術による検索エンジンと検索連動型広告配信システムをヤフーに提供する。反対に、ヤフーは、時々刻々と移り変わるネットショッピングの状況や、オークションの情報などを提供する。
ヤフーの井上雅博社長は「将来的にグーグルの検索エンジンを基に、ヤフーの付加価値をつけたほうが成長に寄与すると考えた」と自信を見せた。ヤフーの利用者にとっては、ポータル内の検索の精度が一段と上がる。
国内では、すでにNTTレゾナントの「goo」や、NECビッグローブの「BIGLOBEサーチ」などが、グーグルの検索エンジンを採用しており、そこにヤフーが加わったことで、グーグルが国内シェアの90%以上を握る。これを受けて、新聞紙上では“グーグルの寡占化”を危ぶむ報道が目立つが、事の本質はそこにはない。
米国のヤフーは、紆余曲折のすえに自前による検索エンジンの開発を捨て、米マイクロソフトの「Bing」を採用したので、日本法人もそれに倣うものと見られていた。だが、ソフトバンクが最大株主の日本法人だけが、あえて“宿敵”であるグーグルと手を組んだのには大きな理由がある。
グーグルは、検索では世界一の存在だが、依然としてアジア域内でのプレゼンスは低い。加えて、中国政府と衝突を繰り返しているうちに、中国の「百度(バイドゥ)」に70%のシェアを取られて大きく水をあけられている。中国では、グーグルとて20%台の水準なのだ。
複数のソフトバンク関係者の話を総合すると、以下のようになる。「相対的に優先順位が下がった検索エンジンに限って、グーグルに任せる。その一方で、ヤフーはポータル上のサービス拡充に専念し、アジアの市場に打って出ると方針を切り替えた」。
というのも、すでにソフトバンクは、世界最大級のB2B(企業間商取引)サイトになったアリババ、C2C(消費者間取引)サイトのタオバオ、SNSサイトのOPIなど、中国のネット関連企業では最大手ばかりを押さえている。最近では、米国のUSTREAM(インターネット放送)にも出資した。
2015年には、世界のインターネット人口の50%をアジアが占めると予測される。現時点では、誰もはっきり口にしていないが、将来的には、グーグルとソフトバンクグループが手を組み、互いの役割を分担しながら、アジア全域での成長を実現するという“仰天のシナリオ”もありえない話ではないのである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)