2021年に発覚した品質不適切行為をきっかけに、三菱電機では組織風土の抜本的な見直しが急務となった。風土刷新の手段として、全国の現場で実践が進んだのが「1on1ミーティング」だ。いちマネジャーの熱意によって導入され、浸透していった背景には、現場の管理職の「乾き」があり、役員クラスをも巻き込んだ熱量の伝播があった。旗振り役となった全社変革プロジェクトグループの原田進氏と井出朋氏に、導入から広がり、現場の変化までをうかがった。(取材・文 間杉俊彦、企画 ダイヤモンド社書籍編集局)

「なぜ上司に本音を話さなければいけないの?」それでも三菱電機が対話をあきらめない、納得の理由Photo: yu_photo/Adobe Stock

「考えがまとまらなければ話しちゃ駄目」

――まず、1on1を導入したきっかけを教えてください

原田進(以下、原田):もともと、私が『ヤフーの1on1』(著・本間浩輔)を読んで、1on1を実践していたんです。自己流の1on1でしたが、それによってメンバーが変わってきたという実感があって、課としては過去最高の売り上げも達成したりしていました。

 その頃に品質不適切行為が発覚して、社長の号令で風土改革を進めるチームを作ることになりました。そこで自身の経験から、1on1が全社に広がったら、会社が変わるんじゃないかと考えて、手を挙げて風土変革に参加しました。

 まずは、社内メールの宛名に「殿」をつけるのをやめるなど、「あいさつ、感謝、さん付け」の呼びかけから始めました。

 職場の人間関係に関して、自分自身もそうですが、上司と話すときに、「ちゃんと考えがまとまらなければ話しちゃ駄目」みたいな意識があったんじゃないかなと思うんです。品質不適切行為も、「言えない、話せない」という社内の風土が背景にあったのではないかなと、今になってみると思います。

「なぜ本音を上司に言わなきゃいけないの?」

――当初、井出さんは1on1に懐疑的だったとか?

井出朋(以下、井出):1on1の導入には共感はしなかったですね。そもそも「なぜ本音を上司に言わなきゃいけないの?」という思いが強くて。

 本音っていう中には「弱み」もあるじゃないですか。特に私は技術系で、女性も少ない環境だったこともあり、自分の弱みを見せることに抵抗がありました。「自分の役割を取られるのではないか」「評価が下がるのではないか」――そんな不安が先に立っていましたね。

原田:そこを何とかしたくて、一緒のグループにいた井出さんを、最初は無理やり(笑)巻き込んでいったんです。

井出:視点が大きく変わったのは、社内で本間浩輔さんの講演で「1on1は部下の成長のための時間である」と聴いたからです。申し訳ないけど、原田さんから聞いた時は、とりあえず話をすればいい、っていうふうにしか聞こえていなかったんです。

 上司を使って自分が成長する。自分が成長したら組織も成長する、それが1on1なんだよっていうのを、本間さんに言われたときに、すごい感動したんです。考えてみたら、私は「こうありたい」とか「ちょっと今ここ困ってるから手伝って」って、ちゃんと上司に言えてなかった。