回復の兆しが見えない日本の不動産市況。だが、ある現象が水面下で起こっている。中国、台湾、香港などの個人投資家が日本全国の不動産を買い進めているのだ。マンションからホテル、別荘地に至るまで広がる“中華マネー”。不動産市況回復の一助となるのか。

 7月のある日。都内の有名シティホテルに上海から観光客の一団が到着した。スイートルームに宿泊しショッピングを楽しむ彼らの真のターゲットは、銀座のブランド品や秋葉原の家電ではない。滞在期間のうち丸2日間、朝から夕方まで見て回る、都内の新築マンションのモデルルームや、中古マンションである。彼らは中国の旅行代理店、日本之窓が企画した不動産投資ツアーの参加者なのだ。

「将来長女が日本に留学するときのために、マンションの購入を検討している」「利回りのいい中古物件を買って運用したい」。なかにはまだ20代の若い参加者もいる。

 日本之窓はこれまでに数回、上海での投資説明会で希望者を募っては、日本への投資ツアーを実施している。「中国本土の富裕層は日本の不動産への関心が非常に高い」と事業を運営する日本之窓国際旅行の沈・エン常務は話す。

 リーマンショック後、大きく落ち込んだ不動産市況。そのなかでひそかに存在感を強める“新たな客層”が中国、台湾、香港などの中華系なのだ。日本に住んでいる人のみならず、冒頭のような非居住者が投資目的やセカンドハウスとして買う例も増えている。

「中国系の顧客に販売した物件数は年間100を超える」(大手マンションディベロッパー首脳)といい、なかには全体の20%を中国人が所有するマンションもある。

 こうした潮流に企業も動いた。台湾最大手の不動産会社、信義房屋は7月20日、東京都内に日本支社を開設した。ターゲットは台湾の顧客。オープンから150人の新規顧客を獲得し、すでに約20件の物件を販売した。成約した物件の中には、東京都港区の新築タワーマンション最上階の4億円の部屋なども含まれる。「日本に支店を持つ台湾系の銀行4行と提携しており、住宅ローンも使える。2年後までには年間取扱高で150億円を目指す」と吉澤慶慧・信義不動産次長は言う。