シンガポールから楽天撤退!
リストラされた人々の意外な反応
今年2月の旧正月明けのこと。シンガポールのビジネス街が一時騒然となった。日本を代表する通販企業の楽天が、シンガポールをはじめとしてマレーシア・インドネシア・タイのネット通販事業を撤退させたと、シンガポール最大紙ストレーツタイムズが報じたのだ。
企業が撤退するのは珍しいことではないが、筆者も含めてシンガポール国民が驚いたのは、「1年で一番大切な旧正月から5日目。1年のスタートを親族一同が集って近況を話しあう旧正月に、クビを切った」という点だ。
日本以外のアジアの多くの国は、1月1日の新年より、太陰暦による旧正月こそが「新年」だ。シンガポールでは旧正月の祭日は2日間だけだが、旧正月から15日間は正月期間。お祝いムードのこの期間は、企業も「仕事であまりプレッシャーを与えない」のが暗黙のルールとなっている。ましてや、正月期間にクビなんて考えられないことなのだ。シンガポール企業では、このことを「15日ルール」と呼んでいる。
日本企業が、無残にも旧正月にこの「15日ルール」を無視してリストラした――。新聞の論調からそんな印象を感じとった事件であった。
その後の楽天がどうなったのか気がかりで、ローカルの友人のつてで、リストラされた元社員の人たちとコンタクトを取ることができた。すると驚くことに、数名が皆、口をそろえて「楽天の事業撤退&リストラでの対応を評価するなら、5段階中4」と言い放ったのだ。それぞれ1人ずつ話を聞いたにもかかわらず、皆それぞれがこの一件を高く評価していることは驚きだった。
時期が悪かったことで「マイナス1」となっただけで、とにかく再就職先の斡旋サポートが手厚かったことが評価されたようだ。具体的には、日本でのビジネスサポートに回せそうなスタッフは極力残そうとの努力が見えたこと、出店していた企業には年間登録費(?)がきちんと返却されたことなどだ。
日本であれシンガポールであれ、企業が現地から撤退するときはトラブルがつきものだが、今回の楽天に限っては非常に良心的だったことに、働いていたスタッフも感銘を受けたようだ。楽天の旧正月における事業撤退は、新聞では不名誉な烙印を押されてしまったが、結果としてリストラされた人々に評価された功績は称えるべきだろう。