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あれか、これか ― 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門
【第36回】 2016年6月27日
著者・コラム紹介バックナンバー
野口真人 [プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト]

ファイナンスが編み出した「後悔の量」を最小化する方法

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ファイナンス理論は「選択」の力を磨くうえで、大きなヒントを与えてくれる。では、「最も後悔が少ない選択」はどうすれば実現できるのだろうか?ファイナンス理論の入門書『あれか、これか』から「オプション理論」について紹介していく。

「後悔の量」を最小化する方法

まずはこんな問題から。

【問題】
あなたが親から相続した遺産は、時価1000万円のO社株のみである。この株価が今後どう動くかは誰にもわからないが、株価は必ず変動するので、あなたの財産はすでにリスクにさらされている。このとき、あなたならどの行動をとるか?
(1)相続直後にすべて市場で売却し、現金1000万円を手にする
(2)現時点で半分(500万円)だけ売却し、残りは保有し続ける
(3)売却はせずにすべて保有し続ける。

 「リスク・金利・時間」の3つとモノの価値との関係性を解き明かす学問、ファイナンス――なぜ僕たちがこれを学んでいるのかといえば、そもそものスタート地点は「選択」だった。ファイナンスは価値をめぐる判断、つまり選択の力を磨くうえで、さまざまなヒントを与えてくれるのだ。

ところで、僕たちはなぜ正しい選択眼を持ちたいと願うのだろうか?答えはいろいろ考えられるが、1つの理由は後悔を避けたいからではないだろうか。「あのとき、どうしてあれを選んでしまったんだろう」と悔やんでしまう人、そんな思いをしたくない負けず嫌いな人のために、ファイナンス理論は存在しているのだとも言える。

さてそこで、親の遺産の相続である。これについては、どれが正解ということはない。株価が上がれば(3)がいちばん得をし、が(1)いちばん損をする。株価が下がればその逆、つまり(1)がいちばん得をし、(3)がいちばん損をする。

ただ、株式投資に自信がない人、現金至上主義にとらわれている人は、株価の予想などしようとせずに、確実に1000万円が手に入る(1)を選ぶはずだ。とにかく後悔するのが嫌で、絶対にリスクをとりたくないからこそ、利益確定に走るわけである。

しかし、本当に後悔したくないのだとすれば、そして、自分の予想にまったく自信がないのだとすれば、選ぶべきは(2)である。これを選んでおけば、株が上がろうと下がろうと、(1)や(3)に比べて最悪になることはない。必ず2番手を維持できる。

株価が下がったときには、「半分だけ売っておいてよかった」、株価が上昇したときには「半分残しておいてよかった」――そう考えられる。つまり、(2)の行動こそが「後悔の量」を最小化する選択肢なのである。このような振る舞いは、ファイナンスの「オプション理論」の世界に大いに通じるところがある。

そう、オプションとは後悔しないための取引なのだ。

そこで今回からは、数回にわたって、後悔したくない人のためのリスク・コントロール技術「オプション理論」について解説していくことにしよう。

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野口真人(のぐち・まひと) [プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト]

1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。

2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。2014年・2015年上期M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。これまでの評価実績件数は2500件以上にものぼる。カネボウ事件の鑑定人、ソフトバンクとイー・アクセスの統合、カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO、トヨタ自動車の優先株式の公正価値評価など、市場の注目を集めた案件も多数。

また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。

著書に『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など。


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