もちろん、経営がうまくいく保証はどこにもない。業績が低迷して、5年後に株価が10分の1(1000円)に下がってしまったら、何が起こるだろうか?

あなたが5年前に受け取ったのが1万株の現物であれば、1億円の価値があった資産は1000万円にまで目減りし、9000万円の含み損を出すことになる。

しかし、あなたが実際に受け取ったのは、1万株を買う権利にすぎない。株価が下がったのであれば、そのときはストック・オプションの権利を行使しなければいいだけの話だ。あなたは1円たりとも損しないのである。

これこそが、オプションがいいとこ取りの取引などと言われるゆえんだ。要するにこれは、現実の結果を見てから、アクションを決定できる「後出しジャンケン」の仕組みなのである。

次回からは、このストック・オプションについて、より詳しく見ていくことにしよう。

野口真人(のぐち・まひと)
プルータス・コンサルティング代表取締役社長/
企業価値評価のスペシャリスト
1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。
2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。2014年・2015年上期M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。
これまでの評価実績件数は2500件以上にものぼる。カネボウ事件の鑑定人、ソフトバンクとイー・アクセスの統合、カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO、トヨタ自動車の優先株式の公正価値評価など、市場の注目を集めた案件も多数。
また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。
著書に『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など。