ここに来て徐々に円高が進行し、更なる円高の進行と景気の先行きを懸念する声が高まっています。しかし、そうした認識は正しいのでしょうか。

円高が騒がれる前から景気は悪い

 日経新聞を中心とする最近の新聞の報道には違和感を感じざるを得ません。トーンとしてはだいたい「徐々に景気が回復傾向にあるのに、円高の進行でその足が引っ張られかねない。政府は円高への対応をすべき」という感じですが、これほど偏った見方はないように思えます。

 そもそも、円高が進み出す前から景気は悪いのです。東京などの大都市圏や大企業については、中国特需やエコポイントなどの景気対策の恩恵で多少は良くなっているのは事実ですが、地方の景気はかなり深刻です。私は講演で地方に行くことが多いのですが、地元の企業経営者の方々のお話を伺うと、日本の北か南かの区別なく、一様に同じような状況を聞かされます。

 未だに多くの地方の基幹産業は建設業と農業ですが、建設業については、公共事業予算の減少もあり、だいたい5年で売上は半減しています。中小企業の業績は悪いままです。昨年9月の政権交代以降も、地方の雇用は増えていません。それらを反映し、タクシーの運転手さんに話を聞くと、どこの地方でも夜の街はさびれる一方のようです。

 地方は元々そうした深刻な状況にあるからこそ、8月7日に公表された内閣府の「国民生活に関する世論調査」でも、政府への要望として“景気対策”を挙げた人が69%余りと、昨年より約7ポイント上昇し、昭和53年以降でもっとも高くなったのではないでしょうか。

 よく考えると、昨年は景気低迷の原因としてリーマン・ショックの影響ばかりが喧伝されました。そして今回は円高の影響が騒がれています。このように、どうも景気への懸念の材料としては海外要因ばかりが強調される傾向にありますが、明らかにおかしいと言わざるを得ません。