トレンダーズ(株)代表を退任後、(株)カラーズを立ち上げ、ベビーシッターサービス「キッズライン」を運営する経沢香保子さん。新刊『すべての女は、自由である。』の発売を記念して、サッカーコメンテーターでタレントの前園真聖さんとの対談が行われた。前園さんの人気著作『第二の人生』(幻冬舎)と『すべての女は、自由である。』から引用した言葉をもとに語り合っていただいた。(構成:池田園子 撮影・小原孝博)
何事も「あたりまえ」と考えるのは間違い
経沢 事件(※1)のお話をしてもいいですか?
※1 2013年10月13日、酒に酔った前園さんがタクシー運転手に暴行を加えた容疑で逮捕された事件。翌14日に処分保留で釈放され、同日謝罪会見を行った後、4ヵ月活動自粛していた。
前園 もちろんです。
経沢 ご著書の『第二の人生』は、事件の翌日目を覚ましたら知らない男性が立っていて、そこは警察署だった……というスリリングな描写から始まっていますよね。当時の前園さんは41歳。実は、私も同時期に離婚し、創業した会社を辞めたときでした。そんな人生のどん底の時期も、しばらく自分を見つめ直してからの再出発の時期も、まったく私とかぶっていたので、本を読んで驚きましたし、強く感じるものがあったんです。
前園 ありがとうございます。
経沢 今日お聞きしたかったのは、前園さんは「もといた場所に戻り、そこで認めてもらいたい」と書かれていましたが、どうしてすぐにそう思えたのか、ということ。私の場合は、魂を込めてつくりあげてきたものが突然なくなって、次の人生のことをなかなか考えられずにいたので。
前園 どうしてでしょうね。現役(プロサッカー選手)時代も、うまくいかないことが多かったんです。そのときに、サッカーを二の次にして、遊んだり他のことで気を紛らわせたりしてみたものの、何も解決されないと気づいたんですよ。翌日グラウンドで練習していると、やっぱりここに来て、体を動かして、皆とコミュニケーションをとって、監督にアピールしないと何も変わらないな、って。グラウンドが自分の本当の居場所だな、と悟ったんです。
経沢 そこを避けても、ダメだと。
前園 ええ。だから、事件という失敗をした後も、ぼくが仕事させていただいていた場所に戻って、もう一回皆に声をかけてもらえるようになるのが、スタートなんじゃないかなと思ったんです。
経沢 4ヶ月の謹慎後、翌春にテレビのお仕事で復帰されて。事件前後で本当にたくさんの変化があったと思いますが、ご自身の中で一番大きな「拾い物」は何でしたか?
前園 単純な答えになりますが、周りの方々への感謝ですね。もちろんそれまでも、ぼくのために動いてくれるスタッフやそのほか関係する方々へ、感謝の気持ちはありました。でも、それは、心からのものではなかったんじゃないか、と思うんです。心のどこかでは「この仕事が来るのはあたりまえ」と驕っていた自分がいました。でも、実際、自動的に舞い込んでくる仕事なんてないですよね。
経沢 そうですね。
前園 レギュラーの仕事を自粛し、既に決まっていた仕事をキャンセルし、引きこもる日々を送ってようやくわかったんです。調子のいいときは「自分ひとりの力でここまでやってきた」と思ってしまいがちなんですが、何もなくなって、誰にも声をかけてもらえなくなって、後ろ指を指される経験をした後、そうじゃないんだ、と。誰かに必要とされることが、こんなに素晴らしくありがたいことだと、初めて思ったんです。
経沢 人生を根底から揺るがす大きな出来事があると、仕事へのありたがみや、関わる周囲の人たちへの感謝の気持ちが、大きく変わりますよね。
前園 本当にそう。
経沢 わかります。私も前の会社では、100人の組織の代表だったので、担当役員や各部署にマネージャーが大勢の社員を束ねてくれていて、自分は社長として全体を見回して監督していればよかったんです。それは、それで緊張感のある大変な仕事ではありました。逆に、いまは社員10人足らずのベンチャーで、ゼロからやっています。だから、社長とはいえ、現場の仕事ももちろんしますし、戦略も描く、人事も広報も幅広く役割を担っています。だからなおさらかもしれませんが、仲間がいてくれることに、心からありがたみを感じる日々です。以前は社員がいて、組織があって、採用が行われていて、というのが日常でしたので、感覚が麻痺していたかもしれないと反省することもあります。非常時に感じるほどのありがたみは、常に離さず持っておいたほうがいいと思います。
前園 何でもないときに「あたりまえ」だと思っていたことは、実はあたりまえじゃないんですよね。