長く活躍している人は「専門が平均5つ」ある

石川 「グリットが高い人」の性格は、時代によって変わると思います。右肩上がりに経済が成長しているような時代では、真面目であればよかったかもしれません。ところが、現代のように変化が激しかったり、せっかく身につけたスキルもすぐに陳腐化するような時代では、外に出て行って新たなアイデアを取ってくることが必要になります。

 そして何かを学ぼうというとき、最も効率がいいのは、その分野の第一人者と会うことです。そういう意味で、外交性や開放性は重要だと思うんですよね。また、努力し続けるためには、外交性や開放性が必要だという研究もあります。何か一つのことで努力を続けようと思ったとき、新しい知見を入れていかないと努力が続かないんだと思います。

ムーギー なるほど。それは非常によくわかりますね。私が長期間何かを続けて成功している人の例を見ると、そもそも視野が広く、いろいろな経験があるから、「自分は何が好きで、何に向いているのか」を理解していると感じます。得意でも好きじゃなければ続かないし、好きでもヘタだったら続かないですよね。好きであり向いていることなら、努力と思わずに長期間できてしまうのではないかと思うんです。

 一方で、好きではなかったり、あるいは向いていないことでも長期間続けることができる人がいる。そんな人はまさに「グリットが高い」と言えるのではないでしょうか。そして、それを可能にさせているのが、真面目・外交性・開放性といったものだ……そんなふうに理解したのですが、いかがでしょうか。

石川 そういうことです。ただ、得意なことだけやっている人は、本当の意味での自信が生まれにくいですね。苦手を克服してこそ自信が生まれます。

ムーギー そうですか? 単なるお山の大将で終わる恐れがあり、自信というより「無知からくる勘違い」になる可能性があるというのはわかりますが。

石川 あとは、やはり視点が高くないと、長くやっていこうとはなかなか思わないですね。これも研究があるんですが、長く活躍を続けている人は、視点が高いゆえに視野が広いため、平均して5つほどの専門性を持っています。傍からは全然違うことをやっているように見えますが、本人からすれば全部つながっているんです。

感情の「コントロール力」を子どもに与えたい

ムーギー なるほど。レオナルド・ダ・ビンチも音楽、建築、数学、解剖学、天文学、物理学、美術と、それはそれは忙しい人でしたもんね。視点が高くなり、また洞察が深くなれば、大概のことは本質的につながっている、ということでしょう。

 最後にもう一つだけお聞かせください。本書『一流の育て方』の各章の冒頭では、さまざまな分野のリーダーがいったいどのような「育てられ方」をし、また我が子を育てているのかを数多く紹介しているのですが、石川さんご自身が、お子さんにしてあげたい教育とはどのようなものですか?

子どもの将来の成功を決める<br />最重要ファクター「グリット」とは何か?

石川 ぼくは研究者なので、まず研究を調べるんですよ。世界的な科学雑誌「サイエンス」で、子どもの脳にいい教育が3つ紹介されていました。

 1つ目は「モンテッソーリ教育」。マインドフルネス、つまり「いま、この瞬間に体験していることに意識を向ける」というアプローチをベースにした教育です。

 2つ目は「武術」。

 3つ目は「ツールズ・オブ・ザ・マインド」という、ロシアの天才心理学者が考えた教育法です。これは簡単に言うと、何か物事を行う前に一度メンタルリハーサルをするというやり方です。

 これらに通じる本質は何だろうと考えたとき、ぼくは「感情のコントロール」だと思いました。ネガティブな感情をコントロールするのと同時に、ポジティブな感情を自由自在に発揮することです。ストレスをワクワクに変える力があれば、何でも楽しく学べるのではないかと思うんです。

ムーギー 感情をコントロールするということに関して、石川さんは瞑想の重要性についてもよくお話しされていますよね。

石川 瞑想は、感情を抑制するというより、自由自在にいろいろな感情を解き放つものなんです。

 たとえば、同じネガティブ感情でも「怒り」と「不安」は全然違います。「怒り」は、じつは楽観的な感情です。リスクを過小評価している状態です。

 これに対して「不安」は、人を悲観的にします。リスクを過大評価しているんですね。

 もうちょっと言うと、「怒り」の感情の中にいるときは、物事を直感的に捉えやすく、「不安」の感情の中にいるときは、ロジカルに考えやすいです。

 感情それ自体に「いい」「悪い」はありませんが、それぞれ特定の思考パターンに導いてくれるわけですね。ということは、感情を自由自在に操ることができると、人生がものすごく楽しくなると思うんです。

ムーギー お子さんには、感情を自在にコントロールして、それに応じた思考力を使えるようにしてあげたい、というわけですか?

石川 はい。そのためにいまやっているのは、1歳の子どもが泣いたり笑ったりしたら、ぼくも一緒に泣いたり笑ったりすることです。子どもはすぐに人のマネをするんですよ。だから、ぼくが泣いた状態からだんだん普通の状態に戻るのを見て、マネしようとするんですね。ポイントは呼吸です。早い呼吸を徐々にゆっくりにしていきます。

 笑っているときは際限なくなりますね。ぼくと子どもと二人で「アハハハハハ!」ってずっと笑っちゃいます。

ムーギー 石川さんはよく笑いますよね。さぞかし笑いに包まれたご家庭なんでしょうね。

石川 はい、楽しいです。妻は冷ややかな目で見ていますけど(笑)。

ムーギー 今日は、『一流の育て方』を考えるうえで非常に重要な示唆を頂きました。感情をコントロールするということは、抑圧だけを意味せず、解き放つことも意味する。そして感情ごとに特有の思考パターンを導いてくれる。

 興味深い、いいお話をたくさん聞かせていただきました。どうもありがとうございました。

(構成:小川晶子 写真:柳原美咲)