発売わずか2か月で13万部を突破した、『一流の育て方』。著者の一人であるムーギー・キム氏と、娘の里佳さんとの共著『女子高生社長、経営を学ぶ』が話題になった、フラッシュアニメ「秘密結社鷹の爪」で知られる株式会社DLEのCEO・椎木隆太氏による対談の後編です。「勘違いのパワーで主体性を育む」椎木家の子育てはなぜ生まれたのか、原点を探るうちに話は椎木氏の育った環境へ。なぜ椎木氏は、主体性を持つことに注目するようになったのか? そこには、「椎木パパの父」の存在がありました。(構成:田中裕子、写真:柳原美咲)

理想の家族をつくるために努力する

家族をプロデュースしてきた椎木パパは、<br />どのように主体性を「育てられた」のか?

ムーギー 椎木さんは仕事がお忙しいなか、子育てにもかなり深く参加されているんですね。

椎木 僕は、人生の基盤は家庭にあると考えています。どんな仕事より家族が大事だし、人生の中でもっとも家族に努力とエネルギーを注ぎたい。それで、表現は正しくないかもしれないけれど、昔から「家族をプロデュースする意識」が強くて。

ムーギー ほう。「家族をプロデュース」とは、どういうことでしょう?

家族をプロデュースしてきた椎木パパは、<br />どのように主体性を「育てられた」のか?椎木隆太(しいき・りゅうた)
株式会社ディー・エル・イー代表取締役。1966年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。1991年ソニー株式会社入社。シンガポール、ベトナム駐在などを経て2001年退社。同年、有限会社パサニア(現株式会社ディー・エル・イー)創業、代表取締役就任。「秘密結社 鷹の爪」「パンパカパンツ」などをヒットさせ、2014年3月東証マザーズに上場、2016年4月東証第一部に市場変更。2015年6月には「東京ガールズコレクション」を買収し、株式会社TOKYO GIRLS COLLECTION設立、代表取締役就任。女子高生社長として有名になった娘、椎木里佳さんとの共著『女子高生社長、経営を学ぶ』が現在発売中。

椎木 僕にとって理想の妻との関係は、いつまでたっても恋人同士であり、同時にすばらしい父と母であることでした。付き合って30年経ちますが、その理想に向かって30年かけて関係を築き上げてきたわけです。昨日もふたりでコンサートに行きましたし、娘もあきれるくらい、いまでも熱々のカップルです。

ムーギー 素敵ですねえ。

椎木 親子関係も同じです。僕は、子どもは主体性を持って考えて行動し、親は愛情を注ぎ、言いたいことはあれど信頼して見守る関係が「理想の親子関係」だと考えています。そんな関係でいるために努力してきた意識はありますね。

ムーギー 意志の力で、努力してつくりあげてきた、と。

椎木 はい。「秘密結社鷹の爪」や「パンパカパンツ」といったコンテンツをプロデュースしたり、DLEという会社を創業し東証一部上場するまでにプロデュースしているけれど、なんといっても人生で最高のプロデュース作品は家族。これには自信があります。

ムーギー 「家族がいちばん大切」とは、仕事で大成功している一流のプロフェッショナルは、多くの方がおっしゃいます。たしかに家族を大事にできるということは、最も身近な人との信頼を築き、維持できるということ。ビジネスにも直結する能力です。

椎木 そうかもしれません。だから、愛情表現も意識してやっていましたよ。「言わなくてもわかる」という意識は捨てて、密なコミュニケーションを心がけていました。「好き」「ありがとう」「おいしい」は基本ですね。あとは……甘えたり。

ムーギー えっ。………………甘える??

椎木 妻と歩いているときに僕のほうから腕を組んだり、手をつないだり。

ムーギー それも意図的に「プロデュース」を狙ってですか?

椎木 最初はそうだったかもしれません。でも、いまは100%自然にそうしています。甘えるのが幸せで(笑)。

ムーギー そこを掘り下げてお伺いしたいのですが、キャラクターをプロデュースするように「理想の椎木パパ」をプロデュースしているイメージですか? それは、自然な自分の姿とは違う?

椎木 うーん、なにが本当の自分かってわからないですよね。僕はCEOですから、会社では頼りになり、尊敬される対象である必要があります。身なりや行動、言葉、すべてプロフェッショナルとして意識しなければならない。これはある意味、「プロの経営者」を演じているとも言えますよね?

 反対に、家では好きなものを「好き」と言っておいしいものを「おいしい」と言う、赤裸々な自分を演じているわけです。でも、いずれも本当の自分です。社会に対しても、妻に対しても、子どもに対しても、自分は相対的なものだと思っています。

ムーギー 自分は相対的なもの。なるほど。

椎木 根底にあるのは、目の前の人、周りの人に「喜んでもらいたい」という思いです。僕は、根っからのエンターテイナーなんですよ。里佳は「私のことをわかってくれる人だけわかってくれればいい」というタイプですが、僕はあらゆる人に喜んでもらいたい。僕がつくったコンテンツを見た、すべての人に気に入ってほしいんです。イヤだと思う人がいたら、なぜイヤだったのか聞いて「次回の作品でがんばりますから、チャンスをください!」と言いたいくらい(笑)。

ムーギー そこは親子でまったく違うんですね。

椎木 今日だって、ムーギーさんに「いい時間だった」と思ってほしいですからね。どうやったら相手に近づけて、好かれて、また会いたいと思ってもらえるか。そこは意識して、全力で取り組みます。でも、それは全然苦じゃなくて、最高に幸せなんですよ。さっきから「演じている」と言っていますが、あれは自分を分析した結果の言葉で、演じているという意識はありません。

 だから、ムリしているわけでも、自分を偽っているわけでもなくて。相手のパズルのピースを意識して、そこにぴったりハマるコミュニケーションをとるイメージですね。それは、仕事相手でも家族でも同じです。