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日本に巣食う「学歴病」の正体

不要社員に引導を渡すことができない人事部の罪

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第19回】 2016年5月24日
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自分を過大評価し、勘違いした社員が大量に生まれる大きな理由の1つは、会社が人事評価に関する本音や事実を、社員に正しく伝えないことにある

 ここ数回、日本企業に勤務する社員が「学歴病」になっていく構造を、社内の人事や仕組みという観点から見てきた。今回は、なぜ会社は人事評価や処遇などに関する本音や事実を社員に伝えないのかについて問題提起し、その背景を探りたい。

 筆者の問題意識の1つは、人事評価や処遇などの詳細が本人に正確には伝えられないことが、自分を過大評価し、勘違いした社員を大量に生み出す大きな理由になっているのではないか、ということだ。こうした構造の中では、社外・社内の労働市場でまともな評価を受けていないのに、都合のいいように現実を歪曲し、甘えの空間の中で甘い蜜を吸う人も多数現れる。

 会社が、結果としてそんな社員を増やしてしまうのは、人事評価や処遇などに関する本音や事実を「言えない理由」があるからなのだ。その理由は、就職や転職、キャリア形成などの面で高い意識を持つ多くの人を苦しめることにもなる。


「俺たちは学生を雇ってやっている。
余計なことを言うんじゃねぇ」

 2007年のことだから、10年ほど前になる。筆者は、このとき存在を知った慶應義塾大学のある学生について、「彼は今何をしているのだろう」と思い起こすことがある。

 当時筆者は、人事労務の雑誌で、新卒の採用戦線を取材していた。中堅・大企業の人事部では、新卒の採用チームを人事部内に設けることが多い。そうしたチームには、人事部員が数人、他部署などから数人が加わるパターンが目立つ。十数年来の知人がいる金融機関(正社員数5000人)から了解をもらい、数ヵ月の間に5~10回は人事部に足を運んだ。

 この金融機関の人事部は、就職戦線の後半に90人前後の学生に内定を出した。数日後、慶應義塾大学の男子学生から、チームの担当者に電話が入った。学生は「なぜ、不採用となったのかを教えてほしい」と言ったのだという。

 チーム長(30代後半)は、「そんな学生を相手にするな」と話す。「採用の合否は、相対的に決まる。いきさつや理由、背景をきちんと説明できるわけがない」と小バカにしたように笑う。担当者は25歳前後のビギナーだが、上司のお墨付きをもらったからか、「心の病みたいな学生だった」と茶化していた。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


日本に巣食う「学歴病」の正体

 今の日本には、「学歴」を基に個人を評価することが「時代遅れ」という風潮がある。しかし、表には出にくくなっても、他者の学歴に対する興味や差別意識、自分の学歴に対する優越感、劣等感などは、今も昔も変わらずに人々の中に根付いている。

たとえば日本企業の中には、採用において人事が学生に学歴を聞かない、社員の配属、人事評価、昇格、あるいは左遷や降格に際しては仕事における個人の能力や成果のみを参考にする、という考え方が広まっている。しかし実際には、学歴によって選別しているとしか思えない不当な人事はまだまだ多く、学閥のようなコミュニティもいまだに根強く存在する。学歴が表向きに語られなくなったことで、「何を基準に人を判断すればいいのか」「自分は何を基準に判断されているのか」がわかりずらくなり、戸惑いも生まれている。こうした状況は、時として、人間関係における閉塞感やトラブルを招くこともある。

 これまでの取材で筆者は、学歴に関する実に多くのビジネスパーソンの悲喜こもごもを見て来た。学歴に翻弄される彼らの姿は、まるで「学歴病」に憑りつかれているようだった。学歴は「古くて新しい問題」なのだ。本連載では、そうした「学歴病」の正体を検証しながら、これからの時代に我々が意識すべき価値基準の在り方を考える。

「日本に巣食う「学歴病」の正体」

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