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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

「負け組編集長」の自慢話はホラばかり!
中高年の劣等感で澱む出版社(上)

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第27回】 2015年8月11日
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編集長は、夜間部を卒業したことも、コネクションで入社したことも社外の者には隠している。それは、社内の数人しか知らないことだ

 今回は、ある主要出版社の編集長(部長)を紹介しよう。50歳を越え、定年が見えつつあるが、依然として「野心」が消えない。二十数年前から引きずる劣等感や、会社で昇格が遅れているコンプレックスなどが重なり、極度に屈折している。

 この男性の生き様から、読者諸氏は何を感じるだろうか。意識の高い20~40代のビジネスパーソンは、こんなレベルの人材でありながら、役職に就いて、怠慢なことをしているなんて、理解ができないと思うのではないだろうか。

 しかし、これが現実なのだ。この編集長のような人は、企業社会で決して少数ではない。むしろ相当な数に上る。ところが一部のメディアで、「企業ではリストラなどで人材の淘汰が進んでおり、実力主義の職場になりつつある」と唱える。果たして、そんなことが本当に言えるのだろうか。

 アベノミクスが始まって以降、ここ数年にわたる好景気で、むしろ世間では、企業における人材のセレクトについて、真摯に議論する論調も消えつつあるように思える。そんな世の中の空気に一石を投じるためにも、今回のテーマを取り上げてみた。


母校に響く耳障りなダミ声
劣等感の塊のような編集長

 それは、“だみ声”で知られる中小企業の名物社長の取材を終えた後だった。その男の歩くリズムが軽快になる。50歳を越えているとは、思えないほどだ。数メートル後ろを歩いていた40代半ばのフリーライターの甲賀との距離が、瞬く間に開く。その差は10メートルほどになっていた。

 右手に見えてきたのが、そびえ立つ大学の講堂だった。そばにある学生食堂に、2人は入った。甲賀が汗をハンカチで拭きながら椅子に座ると、男はつぶやく。その声は、普段よりもはるかに大きくなっていた。顔の表情も違う。いつもは眉間にしわを寄せているが、今日は笑顔だった。

 「ここは、母校です……」

 誰も聞いていないのに、学生時代のことを話し始めた。周囲の学生を見る目は優しい。いつもは職場で、20~30代の編集者を抑えつけるような高圧的な雰囲気を醸し出す。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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