6月1日、安倍総理は来年4月1日に予定していた8%から10%への消費増税の延期を表明した。これまで外部有識者から意見を聞くなど、年初来から増税の是非を検討しつつも明言を避けていたが、ようやく意思を明確にしわたけである。最初に断っておくが、本稿は消費増税を予定通り実施すべきであることを主張するものではない。ここでは、政府としての意思決定に大きな問題があること、そして何よりも総理大臣としての識見と誠実さに疑問があることについて、指摘したい。

「再び消費増税の延期はない」
あの記者会見は何だったのか?

 今回の消費増税延期は、2014年11月に続いて2回目となる。同年11月18日の総理記者会見で、安倍総理はこう述べた。

「来年10月の引き上げを18ヵ月延期し、そして18ヵ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。3年間、3本の矢をさらに前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる。私はそう決意しています」

 そして、次のように述べて衆議院を解散した。

「税制は国民生活に密接にかかわっています。代表なくして課税なし。アメリカ独立戦争の大義です。国民生活に大きな影響を与える税制において、重大な決断をした以上、また、私たちが進めている経済政策は賛否両論あります。そして、抵抗もある。その成長戦略を国民の皆様とともに進めていくためには、どうしても国民の皆様の声を聞かなければならないと判断いたしました。信なくば立たず、国民の信頼と協力なくして政治は成り立ちません」

 このとき、消費増税延期の理由として安倍総理は、2014年4月1日の5%から8%への消費増税が個人消費を停滞させたことを挙げていた。安倍総理は、10%へ消費税率を引き上げれば、再び景気が悪化し、アベノミクスを台無しにすると考えていたが、さすがに2014年11月の記者会見での発言には重みがあり、そう簡単には増税延期を口に出せなかったわけである。