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伊勢志摩サミットで世界危機を煽った「安倍演出」の巧拙

嶋矢志郎 [ジャーナリスト]
2016年6月4日
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世界危機を煽ることによって、消費税増税先送りの口実に伊勢志摩サミットを利用したとも言える安倍首相。「安倍演出」の巧拙を考えたい Photo:首相官邸HP

 主要7ヵ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)は、世界経済の新たな危機回避に向けて政策を総動員する減速阻止策を柱とする首脳宣言と、テロや難民対策など6つの付属文書を採択して閉幕した。議長の安倍首相は2日間に及んだ討議を終えての議長総括の記者会見で、「世界経済は危機に陥る大きなリスクに直面している。G7は強い危機感を共有し、協調して金融政策、財政政策、構造政策を進め、3本の矢を放っていくことで合意した」と強調した。

 しかし、この総括は安倍首相の我田引水である面が拭えない。安倍首相が政治決断を迫られている消費税増税の先送りを、公約に反して決断するための口実工作に、いわば利用したと言える公私混同の政略が丸見えであり、品位を汚している。G7内はもとより、広く国際社会の日本に対する信頼感を貶めても、止むを得まい。

首脳宣言にも「3本の矢」を踏襲
腐心の「危機」認識に相次ぐ反論

 安倍首相は、首脳宣言の中に「持続可能で、バランスの取れた経済成長の達成」に向けて、自ら強く主張した財政出動をはじめ、金融緩和と構造改革のいわゆる「3本の矢」を狙い通りに盛り込み、アベノミクスの3本柱を踏襲した。財政出動については、慎重な英国やドイツに配慮して、宣言の中では「財政戦略の機動的な運用」へと表現を変えている。

 安倍首相は、世界経済に対する現状認識についても危機感を訴えるため、腐心した。首相は各国首脳に対し、世界経済の現状と8年前のリーマンショック前夜との類似点についてデータを用意して説明した上、「対応を誤ると危機に陥りかねない」として、同調を求めた。

 しかし、各国首脳の閉幕後の記者会見によると、温度差が目立った。EUからの離脱懸念でリスクを過大視したくないキャメロン英首相が、「危機と呼ぶのはいかがなものか」と反論。首脳宣言には「新たな危機に陥ることを回避する」という表現を入れた。オバマ米大統領や安倍首相とはリスクへの認識を共有したが、「EUを離脱すれば、英国だけでなく世界経済に影響を与える」として、EU残留の必要性を訴えた。首脳宣言には、英国のEU離脱も世界経済を押し下げる下振れリスクとして盛り込まれた。

 メルケル独首相にいたっては「世界経済は安定成長を続けている」として、危機感には水を差した。その上で同意したのは、「財政出動だけでなく、金融緩和や構造改革も含む政策の総動員が重要である」点を強調した。オランド仏大統領は、世界経済には「(リーマン)危機の影響が残っている」とした上で、「財政には一定の柔軟性が必要。余裕のある国は財政支出を積極的に増やしてほしい」と要望。カナダのトルドー首相も「財政出動、金融緩和、構造改革の全てが大切である」と同調した。

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嶋矢志郎 [ジャーナリスト]

ジャーナリスト/学者/著述業。東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。日本経済新聞社(記者職)入社。論説委員兼論説副主幹を最後に、1994(平成6)年から大学教授に転じ、芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授などを歴任。この間に、学校法人桐朋学園理事兼評議員をはじめ、テレビのニュースキャスターやラジオのパーソナリティなどでも活躍。専門は、地球社会論、現代文明論、環境共生論、経営戦略論など。著書・論文多数。


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