増税延期をめぐって迷走が続いてきた消費税。そもそもなぜ消費増税が必要なのか、どうして消費税は嫌われるのか、そして本当に景気の足を引っ張っている要因は何なのか?政治・経済問題にも詳しい出口治明・ライフネット生命保険会長と、『消費増税は、なぜ経済学的に正しいのか』を上梓した井堀利宏・東京大学名誉教授が、マクロ経済の見方から、私たちの普段の飲み会プランのチョイスが景気にどうかかわるのかまで、縦横無尽に語り合います。
「低負担・中給付」の社会保障
財源が足りなくなるのは当たり前
出口 借金が1000兆円超にのぼる現在の日本の財政状況をどのようにご覧になっていますか。
井堀 かなり深刻です。毎年の歳出を税収でまかないきれない状況で、国債残高が838兆円、借金全体は1062兆円まで積み上がっています。
政府も徐々に歳出を抑制して歳入を増やす、というシナリオは示していますが、その前提が楽観的すぎて実現は危うい。消費税の増税を巡る議論も(5/20の対談時点で増税延期は確定していない)、現時点でのマクロの景気状況にあまりに配慮しすぎていて、消費税を本来充てるべき中長期的な財政再建や世代間公平の実現には関心が低そうで心配です。
出口 僕の理解では、政府の役割はそもそも公共財・公共サービスの提供にあって、その費用をまかなうために税金を集めているわけです。その大原則に則れば、「負担と給付」のバランスがとれていなければ財政は破綻します。OECD加盟34ヵ国でみても、日本は負担が軽い割には平均以上の給付が受けられる「低負担・中給付」の国で“負担<給付”ですから、借金しないと財源が足りなくなるのは当たり前だと思います。
井堀 おっしゃるとおりですね。
出口 それに、増税の先送りによって将来に負担を繰り延べることは、現代の英知を結集した民主主義の根本原理に反してはいないでしょうか。今の財政状況が続けば、孫世代が成人するころには、彼らが分配すべき税金の3〜4割はすでに祖父母の世代に勝手に使われてしまっている状態です。これでは民主主義の正統性が保てない。先進国である欧州(EU)がマーストリヒト条約で財政規律を厳しく定めているのは、民主主義の原理原則に基づいてのことだろうと推測していて、その認識に大きな差を感じます。
井堀 選挙権が得られる18歳より若い子ども世代や、将来生まれてくる世代は、今の政府が彼らに負担をもたらすような意志決定をしても反論の場が与えられていないんですよね。有権者は自分たちの目先の問題ばかり考えがちですから、代わりに政府が広い視野をもって将来について考えて行動するべきですが、日本は特にその認識が弱いと思います。
また、日本の政府が特に近視眼的になっている理由には、もうひとつの政府の役割である(財政政策によって有効需要をコントロールする)ケインズ的な景気対策への偏重も関わっているのではないでしょうか。