高齢者からも等しく徴収できる税は
消費税をおいて他にない

出口 ご著書『消費増税は、なぜ経済学的に正しいのか』のタイトルは非常にチャレンジングですが(笑)、世代間公平の観点から消費増税を考えるべきだ、と強調されていました。

井堀 消費税も国民にとって「負担」であることに違いありません。しかし、その負担を現在世代が負うのか、あるいは先送りして将来世代にだけ負わせるのか、という観点から検討するべきではないか、というのが私の主張です。

消費増税の延期は、孫の教育費より<br />自分の敬老パスを選択したことと同じ!<br />出口治明・ライフネット生命保険会長×井堀利宏・東京大学名誉教授対談【前編】「消費税にこれほど抵抗があるのはなぜでしょうか」と出口治明会長

出口 時間軸をどう見て政策判断するか、というご指摘ですね。

井堀 そうです。消費税を増税せずに、景気がよくなって自然増収で税収が増えて、将来にわたって増税せずに財政再建できれば最善のシナリオです。しかし、冒頭に財政状況のお話が出たとおり、それは10%を超える高度成長が持続しない限り非現実的ですよね。歳出削減だけでも間に合わない。だとすれば単純な話で、増税を先送りすれば、将来世代が負担することになる。財政再建のコストを将来の人に負わせるのは、世代間の不公平を拡大するし拙いのではないか、というのが本書の主張です。

出口 消費税にこれほど抵抗があるのはなぜでしょうか。

井堀 ひとつの要因は、(収入の低い人ほど負担割合が増える)逆進性にあると思います。食料品などに軽減税率が導入されたとはいえ、基本的には所得が低い人も消費する際は払わなければなりませんから。

出口 わが国で皆保険・皆年金制度ができた1961年は、若者11人で高齢者1人の面倒をみるという、いわばサッカーチームの状況でした。当時であれば所得税と社会保険料で十分対応できた。しかし、少子高齢化が進んで、サッカーチームが徐々に騎馬戦(若者3人で高齢者1人を支える)になり、さらに今後は肩車のような(若者1人で高齢者1人を支える)状況に進みつつある。そういう状況では、働いていない高齢者にもお金があるなら負担してもらいたいし、それには消費税しかないんだ、と正面から堂々と説明すべきではないでしょうか。

井堀 政府も説明しているつもりでしょうが、高齢者のなかで所得が低い人たちが反対しているのではないでしょうか。既得権を失うことにはみな反対しますから。

出口 消費増税について5〜10年、あるいは20〜30年という長期の時間軸で考えたら、どう判断すべきか。高齢者に言い方を変えて伝えるなら、来月の“敬老パス”(地方自治体が発行する、特定区間の交通機関に格安で乗れる福祉乗車証)と、目の前にいるお孫さんの将来と、どちらが大事ですか、ということですね。
 たしかに過去にも税金を上げると言って選挙に勝った首相はいませんから、難しいことなのでしょうが……今思えば、2012年に社会保障と税の一体改革のために与党(民主党)と野党(自民党・公明党)が手を組んで嫌なことは一緒にやろうとした「三党合意」の枠組みは、日本にしては珍しい英知でした。あの素晴らしい枠組みを壊してしまったのは本当に残念です。もう一度、同様の枠組みを敷かないと、消費増税もなかなか実施できないのではないでしょうか。

井堀 おっしゃるとおり、消費税増税や社会保障給付の効率化など、かなり踏み込んだ合意ができたのは、日本の政治史上でも画期的でした。当時の野田首相の英断が大きかったのではないでしょうか。ただ残念なことに、そのあとの経緯を見ますと、決まったことが着実に実行されそうにない状況です。