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ニッポン 食の遺餐探訪

「胃もたれしない菜種油」は他の油と何が違うのか

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第43回】 2016年6月8日
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米澤製油の「なたねサラダ油」

 食の取材をしていると避けて通れない話題に『遺伝子組み換え作物(GMO)』の問題がある。

 遺伝子組み換えの技術自体はもう目新しいものではない。糖尿病の治療に使われているインスリンはその技術でつくられているし、チーズ製造に使うレンネットも遺伝子組み換え由来のものが年々需要を伸ばしている。また、GMOについても世界中で安全を証明するための検証が日々積み重ねられている。

 GM作物の是非については本稿では扱わないが、それに恐怖感を持っている人が大勢いることは事実である。日本では消費者運動を中心とした反対意見も根強いため、GM作物の商業栽培は行われていない。しかし、輸入という形で消費者は普通に遺伝子組み換え作物由来の食べ物を口にしている。

 その是非にかかわらず、知らずに食べているということはやはり問題である。日本は中国に次いでGM作物の輸入大国だ。最も輸入量が多いのはトウモロコシ。これは畜産動物の飼料や異性化糖(飲料の甘味料)、コーンスターチという形で使われている。国内で食肉用として流通している牛肉、豚肉、鶏肉は遺伝子組み換え作物によって育てられているし、異性化糖は発泡酒の原料としても使われている。

 次に多いのは植物油の原料となる大豆である。油を絞った後の脱脂加工大豆は醤油の原料として使われているので、遺伝子組み換え由来のものを含んでいる可能性もある。三番目はナタネ。これはサラダ油という形でスーパーの棚に並んでいる。よく食品のパッケージに『遺伝子組み換えを使用していません』という表示があるが、油、醤油、異性化糖(果糖ぶどう糖液糖・ぶどう糖果糖液糖)にはその義務がない。これらの食品にはタンパク質が残っていないからだ(醤油はアミノ酸にまで分解されているので表示しなくてもいいことになっている)。

 こうして考えるともしも遺伝子組み換え作物を避けたいと考えているならば、なかなか難しいことがわかる。スーパーで売られている大豆やナタネ(キャノーラ)などを原料としたサラダ油のほとんどは遺伝子組み換え作物由来と言っていい。

米澤製油の「なたねサラダ油」は
なぜ胃もたれしないのか

 日本で素性の確かな、しかも日常的に使えるサラダ油となると選択肢は限られてくる。というかほとんどないと言っていい。数少ない選択肢の一つが熊谷の米澤製油が製造している『なたねサラダ油』である。以前、取材で伺った松田のマヨネーズを製造する(株)ななくさの郷の松田優正社長が「現実的に使える無添加サラダ油はこれしかなかった」と言っていたが、『松田のマヨネーズ』の原材料の一つだ。

 熊谷駅から車で10分あまり、やや入り組んだ道の先に工場と事務所棟があった。米澤製油は明治25年の創業から今日までナタネ油を専門に扱っている製油会社だ。

 大手の製油会社の多くは輸入原料との兼ね合いから海沿いに工場を構えているが、同社は山に立地している。昔、近隣の農家の人たちがナタネを集めて搾っていた名残だ。埼玉には60社ほどの製油会社があったが現在では米澤製油を残すのみである。

 代表取締役の森田政男氏と技術顧問の山崎栄氏からお話を伺った。

社長の森田政男氏。創業者の米澤家とは親戚とのこと

 「当社は1968年に起きたカネミ油症事件をきっかけに安心、安全な油の追求をはじめました。深刻な健康被害をもたらしたカネミ油症事件の原因はカネミ倉庫株式会社が製造したこめ油に混入したPCB(ポリ塩化ビフェニル)です。このPCBは当時、油脂の脱臭工程で熱媒体として使われていました。そうした事件を受けて、うちでは化学製品を一切使わないと決めました。例えばサラダ油を抽出する際には通常、ノルマルヘキサンという石油製品が使われています」

 ノルマンヘキサンの現物を見せてもらったが、匂いはベンジンに似ていかにも石油製品という印象だ。原材料から効率よく油分をとるため抽出という製法が生まれた。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

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