外国為替市場で急激な円高が進み、警戒感が高まっている。8月30日に、政府・日銀がようやく経済対策と金融緩和政策を公表したが、円相場は1日で円高に振れる限定的な効果に留まった。1ドル70円台の可能性も囁かれるなか、この円高トレンドはいつまで続くのか。そして、政府・日銀が打つべき策はないのだろうか。田中泰輔・野村證券外国為替ストラテジストは、米国経済・金利見通しの下方修正が背景である以上、日本当局が対策を打っても「糠に釘」で、期待できるのは時間稼ぎの効果までと分析する。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)
政府・日銀の対策で
円安トレンドに転じることはない
――政府と日銀が追加の経済対策と金融緩和措置を行ったが、円相場は1日で円高に振れる限定的なものに終わった。
米国と欧州の経済・市場が非常に厳しい状況にある今、「円安ドル高トレンド」を形成できる環境にはない。そもそも日本の国内政策で米国の情勢が大きく変わる訳でもなく、円高の流れを転換できるとは見ていない。
日本は長年経常黒字を積み上げてきた債権国である。内外経済状況が悪化して、国際的な資金の流れが滞るほど、債権国通貨の円はドルのような債務国通貨に対して上昇しやすくなる。持続的な円安に転じるのは、内外経済が改善し、米国など債務国側の金利が相対的に十分高くなってから。足元の円高地合いが一服するためには、最低でも米国景気・金利見通しが上向く必要がある。日銀の金融緩和など国内政策では、米国や世界の情勢改善への作用は微々たるもの。円高抑止の決め手にはなりえない。
――これまでの日本の政策当局の対応について、どう評価するか。
職務上、政策は何をすべきかという「べき論」を極力排除して考えている。つまり、政策当局の行動も含めて、経済・市場における諸々の現象の一つとして組み入れて予測・戦略を立てる。この観点から言うと、日本当局は円高・株安のスパイラルが嵩じてからにわかに神経質に動き出すパターンを繰り返している。
日銀も最近まで、日本経済は相対的に良好との見方を示し、どこかデフレに寛容な「タカ派」バイアスがあり、為替問題は管轄外というスタンスから、90円割れ後も特に反応はしなかった。菅首相も、1月の財務相就任時には「90円台半ばが望ましい」旨の円安志向を見せたものの、90円割れ後しばらく為替に関する言及はなかった。
しかし、85円を割り込んで円高が今局面の新値に達すれば、株安と相まって、無視できなくなると想定された。まずは政治側から口先介入による円高動意への牽制が始まり、次いで、日銀に金融緩和の追加措置が要請される。そして82~83円にもなれば、為替介入できるか具体的に動き始めると見ている。