イチローが数字上の世界最多安打記録4257本を達成した時、「抜かれた」とされたピート・ローズ氏の反応は残念だった。
MLBの通算最多安打記録として公認されているのはローズ氏の4256本であり、日米合算のイチローの記録は公認されない。これは動かせない事実だし、ファンも理解しているのだから、余裕の態度でイチローを祝福し、「トップリーグではヒット1本打つのも難しい。それをこの数まで積み上げたイチローに敬意を表するよ」とでも言えば、ローズ氏も株を上げたはずだ。
ところがローズ氏は合算の記録に疑問を呈し、「日本の安打数を加えるなら、私のマイナーリーグ時代の安打も計算に入れるべきだ」などと不満を述べた。これは世界記録更新と騒ぐ日本のメディアと同じ土俵に上がることでもあるし、「心の狭い人」という印象を与える。
そもそも野球の記録はイーブンの条件で作られるものではない。安打の場合は、対戦する投手も違えば、時代によって球種や投球術も異なる。試合時の気象条件にも影響を受けることがある。ローズ氏にしてもイチローにしても4000本以上も打っていれば、その中にはラッキーなヒットもあるし、難しいボールを見事に打ち返したクリーンヒットもある。単に数字だけを比較して優劣をつけることはできないのだ。
ただ、トップチームのレギュラーとして試合に出場し続け、ヒットを量産し、前人未到のところまで積み重ねてきたことは無条件ですごいといえる。数字はそれを表わすものであり、それを成し遂げるために身につけた技術や精神力を素直に称賛すればいいのではないだろうか。まあ、ローズ氏は現役時代、闘志あふれるプレーが売り物の選手で大の負けず嫌い。そんな性格もあって、不滅といわれた記録が抜かれることに冷静さを失ったのかもしれないが。
ともあれイチローの次の節目記録はMLB通算3000本安打。19日現在で2980本を打っており、あと20本だ。140年におよぶMLBの歴史で3000本安打を記録している選手は29人しかいない。その30人目にイチローはもうすぐなろうとしているのだ。これには誰も文句のつけようがないわけで、その時は全米から称賛され祝福を受けるだろう。