人は学歴を理由に、人生の幸と不幸を語りがちだ。しかし、「あいつは東大卒だから役員になれた」といった話には、どれくらい信憑性があるのか

 早稲田大学名誉教授で心理学者・作家の加藤諦三さんに、企業社会においての学歴や、学歴に翻弄されない会社員の生き方をテーマに取材した。そのやりとりの模様を、今回と次回の2週にわたって紹介したい。

 加藤さんは半世紀以上にわたり、「人はどう生きるか」を研究してきた。10代の頃には、成績に劣等感を持っていたという。東京大学に入学後も、その劣等感を克服しようとする日々が続いたようだ。

 20代の頃、コンプレックスなどで思い悩む心を書き表した『俺には俺の生き方がある』(大和書房)が大ベストセラーとなり、一躍知られるようになった。教育番組『学歴社会を考える』(TVKテレビ)では企画・総合司会を務め、放送批評懇談会によるギャラクシー賞を受賞した。

 その後も、人生論などを中心に多くの作品を発表してきた。全国各地での講演も多い。ニッポン放送系のラジオ番組『テレフォン人生相談』では40年以上にわたってレギュラーパーソナリティを務め、人気を得ている。

 悩める多くの人の心を掴んできた加藤さんにとって、学歴病に侵されない生き方とはどのようなものか――。読者諸氏も一緒に考えてほしい。


他人の出世の理由を推し量る
目に見えるものと見えないもの

筆者 企業社会には、学歴を重んじる人たちが依然として多数います。学歴の「効果」がまことしやかに語られることもあります。たとえば、「自分は○○大卒だから、役員にはなれない。同期生の男は、東大卒だから役員になった」というように、です。

加藤 学歴というものは、目に見えますからね。その意味では、「東大卒だから役員になった」という説明は、非常に説得力があるのです。しかし、事実関係として間違っていることは少なくないでしょうね。

筆者 実際、企業社会では、多くの東大出身者が活躍しています。他の大学の卒業者よりは、はるかに多いように感じます。

加藤 その場合、「東京大学卒だから……」と解釈することが多面的視野に欠けている見方なのです。東大卒の多くが活躍しているとして、その理由を調べると、実は学歴以外のものがたくさんあるはずなのです。