日本の景気が良くならない主因は「将来不安」が強まっているからだ。いままでの先延ばしを基本とする経済政策に対し、国民の不安は強まっている。経済政策の本来の目的は、国民を「前向きな気持ち」にすることだと考えるが、これでは逆だ。アベノミクスには「マジメさ」が足りないのである。
1.限界を超えた「平成型政治的経済政策」
当初アベノミクスでは、インフレを誘導する「インフレターゲット(デフレ脱却)」政策が導入された。国民は半信半疑だったが、その後、景気が良くならずにインフレになっても、国民にとって良いことはないのに気がついた。さらに「デフレ脱却」という言葉の意味は、本来は「物価の下落を止めること」だが、それを景気回復と同じ意味だと国民に刷り込んだきらいがある。そして現在では、政府は政策面でインフレという用語(目標)を使わなくなっている。
先日5月のG7伊勢志摩サミットでも、日本だけが「財政出動」という表現で財政政策を提案した。以前からの財政政策である「公共投資」に制度への補助を加え「財政出動」に名前を変更したのである。「出動」という単語で印象を良くしたかったのかもしれない。財政政策は、元々はインフラを作り、それが経済を活性化させるという長期的な成長政策であった。しかし、日本はインフラがほぼ整備されている。これ以上のインフラ整備の必要性は低い。それを20年ほど続けて、効き目が一時的な短期的経済政策で、借金がさらに積み上がることを、国民もわかってきている。G7で日本以外の先進国が反対するのも当たり前のことだ。また「東京オリンピック」も、不祥事が続いたうえに予算は膨れ上がり、インフラを作る公共投資のような様相を呈している。政府・当局に対する不安は高まるばかりで、本当に五輪を望んでいる国民はどれほどいるのであろうか。
また、これまでは、たとえば税金を上げないこと、つまり短期的に楽をして、長期的な将来を考えないことが、政治的に国民に評価された。しかし状況は変わりつつある。今回もG7後にこのような「政治的配慮」による「消費増税延期」が実行されたが、国民に歓迎ムードは高くない。景気が良くならない、すなわち、収入が伸びない、将来も明るくない状況下で、国民が消費を増やす可能性は低い。さらに財政赤字が大きくなることへの懸念が高まっている。つまり「平成型政治的経済政策」は効かなくなってきている。ここでいう平成型政治的経済政策とは、先延ばしと、様々な面で“量”を拡大する経済政策で、経済改革に重きを置かない政策のことだ。これでは、長期に渡る不況への対応ができず、構造改革もできないという、いわゆる「日本病」は治らない。
筆者は、経済政策とは、平常時は「教育」的で、病気(非常時)になったら「医療」的なものであるべきと考えている。病気の時は、苦い薬も飲まなければならない。もっと悪くなれば手術もしなければならない。その覚悟をすることが大事なのである。痛み止めを飲み続けて、治療すべき悪い点を放置しさらに悪化させているのが現在の経済政策である。このようなやり方は、決して教育的とはいえない。そもそも「経済」とは、本来は「経国済民」(国を治め民を救う)ことのはずだが、現在は逆に将来を食いつぶしている状態ともいうことができる。