お金でなく、ビジョンで
動く人が増えている

経営学的にも「何もしないリーダー」がベスト?<br />入山章栄×藤沢久美 特別対談【前編】藤沢久美(ふじさわ・くみ)
シンクタンク・ソフィアバンク代表
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。そのほか、静岡銀行、豊田通商などの企業の社外取締役、文部科学省参与、各種省庁審議会の委員などを務める。
15年以上にわたり1000人を超えるトップリーダーに取材。大手からベンチャーまで、成長企業のリーダーたちに学ぶ「リーダー観察」をライフワークとしている。
著書に『なぜ、御用聞きビジネスが伸びているのか』『最高のリーダーは何もしない』(以上、ダイヤモンド社)など多数。

【入山】ビジョンベースのリーダーとして思い浮かぶのが、GEのトップをやったジャック・ウェルチです。すばらしいアイデアを発想して、「これから面白いことをやるから集まろうぜ」といって人を集めるやり方です。日本でもベンチャーではそういう動きが増えていますよね。

【藤沢】そうですね。いま、あるベンチャー企業の経営者をしている友人から聞いたのですが、年収1億円だった人が友人の会社に転職してきて、いま年収400万円で働いているそうです。ストックオプションをつけて、互いに頑張ることによってウィンウィンになるようにしましょう、って契約で。

【入山】へえ~!

【藤沢】スーパーエリートで、元いた会社の役員が「引き抜かないでくれ!」と交渉に来ましたし、それなりのポストも用意されていました。でも、ご本人は「やりたいことを実現できる会社だから」と言って、1億円の収入を捨てた。「お金よりやりがい」という人が増えているのを目の当たりしています。とくに30代前半かな。

【入山】30代前半には、たしかにそういう人がいますね。藤沢さんは、なぜだと思いますか?

【藤沢】何人かに話を聞きましたが、面白かったのは、「自分が生まれてから、『日本はだめだ』『終わっている』と言われ続けてきたから」という意見ですね。本当に日本がダメなのだとしたら、自分たちで未来を変えたい――そういう思いを持っている方に何人かお目にかかりました。
ネットが普及しているから、自分と同じ考えの人がいることを彼らは知ることができます。「自分だけがおかしい」という認識もないから勇気が持てるし、行動に移しやすい。ゆとり教育はいろいろとマイナス面ばかりが強調されますが、自分らしさを重視するという意味では、プラス面もあったのだと思います。

【入山】物質的には満たされていることもあって、心の充足を求めていますよね。それに、そういう人たちは「仮にベンチャーで失敗しても、自分はどこかで食べていける」という自信がある。こういう状況を見ると、日本もシリコンバレー化してきているなあ、とも感じますね。シリコンバレーって、会社を3つくらい潰した人も全然珍しくないですからね。
不確実性が高い選択というのは、ダウンサイドリスクも高いけれど、アップサイドリスクも高い。ただ、超エリートの人というのは、失敗してもほかに活躍できる場があるから、ダウンサイドリスクはカットできちゃうんです。経営学的にいえば、不確実性が高いときにダウンサイドリスクをカットできると、潜在的なオプション価値が高まる、ということです。

経営学的にも「何もしないリーダー」がベスト?<br />入山章栄×藤沢久美 特別対談【前編】