専門家には「思考の死角」が生まれる 

 しかも、専門家が陥りがちな・罠・もあります。
 自分がきわめてきた専門性によって、知らず知らずのうちに発想を縛られてしまう恐れがあるのです。 

 お寿司の「カリフォルニアロール」がいい例です。
 あのゼロイチの発想は、日本のなかで腕を磨いてきた寿司職人からは生まれなかったと思います。それはある意味、当然です。なぜなら、彼らにとって、カリフォルニアロールは寿司ではないからです。寿司職人にとって、寿司でないものを考えるのは、邪道に思えるがために心理的抵抗がある。だから、無意識的に、その選択肢を排除してしまうのが当然だと思うのです。実際に、日本ではいまだにカリフォルニアロールは”正式な寿司”として認められていないようです。

 もちろん、それが悪いというつもりはさらさらありません。むしろ、日本人である僕としても、「正統派の寿司」の世界観は揺るがずにあってほしい、とどこかで思っています。しかし、カリフォルニアロールは今やグローバル・スタンダード。世界中の人々に愛好される寿司の定番メニューになっているのです。

 つまり、専門家は、専門家であるがゆえに「思考の死角」が生まれがちということ。そして、多くの場合、この「思考の死角」にゼロイチのアイデアは眠っているのです。このことを自覚できなければ、自分の専門性がむしろゼロイチを生み出すことを阻害する要因になりかねないと思うのです。

 一方、カリフォルニアロールはどうやって生まれたのか?
 答えは簡単で、「素人目線」でモノを考えたからです。
 寿司の素人である海外のお客様にとって、「真っ黒いノリが巻いてある食べ物は、ちょっと気持ち悪い」ものだったわけです。そして、そんなお客様の「素人目線」に合わせたメニューを開発するなかで、おそらく無数の失敗と葛藤を重ねながら、この答えに辿り着いたのではないでしょうか。