あなたの会社にはイノベーションが起きやすい環境がありますか?

なぜ日本企業ではイノベーションが起こりづらいのか。

そのヒントを読み解くカギが、ハーバード大学教育大学院教授のロバート・キーガン博士、オットー・ラスキー博士らが提唱する発達心理学の1つ「成人発達理論」にある。成人発達理論とは、人間の一生涯にわたる発達プロセスを明らかにするもので、なかでもロバート・キーガン博士は人間を発達段階で大きく5つに分類。それに基づいた組織開発や人材育成を行う。現在、様々な欧米企業で採用され、組織の成長に効果的に機能しているという。

一方、そういった手法がまだなじみのない日本企業ではいま、組織の停滞感が蔓延しているのも事実だ。そこで今回は、変革が起きづらく、停滞感が広がる原因を“組織の病気”“組織の限界”の事象と照らし合わせながら、成人発達理論の実践書『なぜ部下とうまくいかないのか』の著者・加藤洋平さんに同理論の見地を交えて解説してもらった。

自己中な人、他社依存な人…
あなたは5つの発達段階のどこにいる?

秋山 加藤さんの著書『なぜ部下とうまくいかないのか』は、ビジネスパーソンにはなじみがない「成人発達理論」をとてもシンプルにわかりやすくまとめているなと思いました。まずは、成人発達理論がどのようなものか、教えていただけますか?

加藤洋平さん

加藤 まず成人発達理論とは、人間が生涯をかけてどのように成長していくのかを扱う学問領域です。成人発達理論の大家でもあるロバート・キーガン博士は、人間は5つの発達段階を経て成長していくと述べています。

 発達段階1は「具体的思考段階」と呼ばれ、言葉を獲得したての子どもの段階なので、成人はみな2以上ということになります。発達段階2は、「道具主義的段階」あるいは「利己的段階」と呼ばれ、自分の関心事項や欲求を満たすことに焦点が当てられています。他者の感情や思考を理解することが難しく、他者を道具のようにみなすということから、「道具主義的」と呼ばれているのです。この段階は成人人口の約10%に見られます。

 発達段階3は成人人口の約70%を占め、「他者依存段階」と呼ばれます。自らの意思決定基準を持たず、組織や社会などの他者の基準によって自分の行動を決定します。組織や社会の決まり事を従順に守るという意味から「慣習的段階」とも呼ばれます。

 発達段階4は「自己主導段階」と呼ばれ、成人人口の約20%にみられます。ここまでくると、自分なりの価値観や意思決定基準があり、自律的に行動することができます。自分の成長に強い関心があり、自分の意思を明確に主張するという特徴があります。

 発達段階5は「自己変容・相互発達段階」と呼ばれ、成人人口の1%もいません。自分の価値観や意見にとらわれることなく、多様な価値観をくみ取りながら的確に意思決定をすることができます。自分の成長のみならず、他者の成長にも関心があるので、部下を育てるのに適した段階だと言えます。