秋山 私自身、多様な価値観があるということを頭では理解していましたが、本当の意味でそれを実感できたのは最初の会社を退社して、別の職場をいくつか体験してからでした。つまり、完全に大人になってからだった。そこはリクルートとは真逆の企業文化を持つ企業だったりもしたので、サバイブするために無理やりにでも自分を変えたり、考え方や行動の習慣を変えたりする必要があったんですよ。

 読者のみなさんも、転職したことで前の会社だったらまったく無能とされる人が優秀だとされたり、その逆だったりすることに驚いた経験があるんじゃないでしょうか。それに合わせて自分を変えていく経験は、発達段階的に成長したかは別にして、とても貴重なものだったと思います。

加藤 「本当の意味で」というのがキーワードですね。「多様な価値観があるのを知っていること」と、「本当の意味で多様な価値観を受け入れること」は似て非なるものなんです。転職によって、これまで自分が培ってきたものが全く通用しない状況に遭遇し、それを乗り越えることができれば、転職は社会人が成長する代表的な機会のひとつになると思います。

「3つくらい違う組織を経験すると、あとはバリエーションで対応できるようになると思います」(秋山)

秋山 「変わった人」「個性的な人」という意味では、大学でもリクルートでもたくさん触れ合った経験があったし自然なことだったんですよ。でも、それは「発達段階3」の人間に変化が当たり前だと浸透させるのと同じで、「個性的であるのはいいことだ」という価値観が浸透した世界にいただけのことだったんですよね。そうじゃない世界にいって個性を殺さずに生き続けることの大変さをちっともわかっていなかった。

加藤 今の秋山さんのお話も重要で、自分の成長は後になってから分かるという特徴があると思います。客観的に過去の自分を振り返って、「あの時はできていなかったな」と思えたときが、その人の中で本当の成長が起こったのだという気がしています。逆に、「自分は発達段階4だ」と感じているときは、そうでないことのほうが多いかもしれません(笑)。

秋山 たしかに。もし成長したいなら、転職は若いときのほうがいいと思います。発達段階的な成長の問題以前に、偉くなってからの転職だと、これまでのスキルや経験、社会的地位を生かしての転職になるから、相手先の世界に完全に染まらなくてもやっていけます。それではサバイブの経験をすることにはなりません。

加藤 たしかにそうですね。今までの経験や社会的な地位が完全に通用しない世界に放り込まれて、サバイブしていく中で、ここはどういうシステムや価値観のもとで動いているのかを意識的に考えることが重要だと思います。

秋山 そういった意味で言うと、3つくらいのまったく違う組織を経験すると、あとはバリエーションで対応できるようになりますね。外国語も、系統の違う英語、フランス語ともう1ヵ国語話せると飛躍的に語学の取得スピードが上がると言われていますが、それと同じ感覚です。

 転職に限らず、海外勤務もいいと思います。日本のルールが全く通用しない発展途上国なんかに送られたら、それこそ日本でぬくぬく転職するのとは比べ物にならないくらいのいい経験になるでしょうね。

加藤 私自身、アメリカに留学してはじめて「自分は日本人なんだな」と気づいた経験があります。それは、言語も違えば行動論理もまったく違う世界でサバイブする経験をしたから感じられたことだと思っています。留学ひとつをとっても、サバイブする人と、単に行って楽しく帰ってきた人とでは「体験」と「経験」の違いがあります。そのときは大変でも、その人の一生というスパンで見ると、サバイブした「経験」はその人の成長にとって本当に貴重なものになると思います。

(構成/大高志帆)

※なお、本記事は守秘義務の観点から事案の内容や設定の一部を改変させていただいているところがあります。

※対談後編は8月上旬掲載予定です。