日本経済が世界からおいてけぼりを食らっている、という話はしょっちゅう聞かされる。この国が20年にもわたって経済成長できていないのも、日本企業が韓国、台湾、インドなどの企業に駆逐されてつつあるのも、すべて世界の動きについて行けてないからだという話だ。
その指摘は基本的には正しい。しかし、その議論の中身はというと、日本を環境立国にしろとか、観光立国にしろとか、アニメで食っていけとか、金持ち税制を廃止しろとかもっとやれとか、議論自体にあまり画期的な視点がない。世界ではすでに実行段階に入っているようなことばかり議論しているように見える。
日本がキャッチアップできていない
「あるテーマ」とは?
そのいっぽうで、ここ数年、特にリーマンショック以降、世界では“あるテーマ”が大きな話題になっているが、残念ながら日本ではあまり議論されていない。「日本経済は世界にキャッチアップできていない」とエコノミストは指摘するが、そのテーマにキャッチアップできていないエコノミスト自身が、世界にキャッチアップできていないといえる。それが日本経済界の大問題なのである。
ビジネスセクターと社会セクター、つまり社会を構成する主要な陣営が共通して議論しているもっともホットなテーマ。それは、『資本主義のあり方』である。日本では、鳩山内閣が打ち出した「新しい公共」が日本社会を変える起爆剤になるかもしれないと期待する人たちもいるが、世界では「新しい資本主義」こそが世界を変えるものとして議論されている。
この連載も最近は高校生や大学生も読んでくれているようなので、念のために解説しておくが、資本主義の「資本」とはお金のことではない。利益を生み出すもの。それが「資本」だ。たとえば、初期資本主義の時代は工業化の時代で、工場でモノを作って売ることが利益を生んでいた。つまり、利益を生み出すのは工場であって、工場を作るためにお金は必要だが、本質的には工場が資本なので、この時代は工場資本主義だった。お金がお金を生み出していたわけではないのだ。
しかし、ヘッジファンドとか金融工学などが出てきて金融業が発達し、お金が直接お金を生むという経済が主流になってきた。お金がダイレクトに資本となったわけで、金融資本主義とはこういう意味である。
金融資本主義の問題点は、実体経済とお金の流れがどんどん乖離していってしまうことで、この構造はバブルを生み出すし、途上国に無用な経済成長を強いることにもなるし、貧富の差を拡大させることにもなる。
しかし、これは資本主義そのものの問題点ではなく、金融資本主義の問題点なので、これに変わる「新しい資本主義」を考え出して実行すれば、世の中はもっと良くなる。これが世界の大きなトレンドとなっている考え方である。経済のあり方を変えて世界を変えようというトレンドなので、ビジネスセクターだけでなく社会セクターからも、さまざまな考え方が打ち出されているというわけだ。