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政局LIVEアナリティクス 上久保誠人

リトビネンコ事件と尖閣事件の比較で浮き彫りになる
日本外交の戦略欠如

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第59回】 2010年10月5日
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 尖閣諸島沖の日本領海に侵入した中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事故で、日本が中国漁船の船長を逮捕して日中関係が緊張している。

 中国は、丹羽宇一郎・駐中国大使の再三に渡る中国外務省への呼び出し、東シナ海ガス田「白樺」の掘削施設への機材運び込み、日本向けのレアアース輸出を全面禁止、日本人4人を拘束と強硬策を次々と打った。

 一方、日本では那覇地検が船長を処分保留のまま釈放したが、事態は好転しなかった。中国は日本に謝罪と賠償を求めて強硬姿勢をエスカレートさせた。

日本政府の対応は、
日中両国の立場に配慮した妥当なもの

 日本政府の対応には厳しい批判が浴びせられた。その代表的なものは、船長の釈放によって尖閣諸島に関して日本の国内法適用が断念され、事実上中国の国内法が適用されることで、日本の主権がほぼ放棄されたというものだ。ただ、この批判はいささか厳しすぎるのではないか。

 そもそも、那覇地検による船長の釈放が、なぜ「外交上の配慮」と批判されねばならないのか。釈放そのものが批判されるのもわからない。法曹関係に詳しい方に聞くと、刑事訴訟法では、勾留期限いっぱいまで勾留しなければいけない規定はない。必要な取り調べの終了後は釈放して構わないのだ。那覇地検の対応を批判する人は、「勾留期限いっぱいまで容疑者は勾留されるもの」という固定観念に捉われている。

 「日本政府は関与せず、沖縄地検の判断での釈放」という日本政府の対応は現実的な線であろう。中国の立場を配慮しながらも、日本が尖閣の主権を放棄することにならない、ギリギリの解釈を可能にするものだからだ。

 中国の強硬姿勢は、経済規模・軍事力の急拡大による国力を誇示するものと考えられている。しかし、中国の強硬姿勢の裏には弱さがあるものだ(第5回)。中国は、大国化路線に日本の協力が不可欠であることを認識し、国内の反日運動が高まることを嫌がる。今回、中国の過去にない強硬姿勢には余裕のなさが感じられる。胡錦濤体制の権力基盤が不安定化している可能性がある。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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「大物政治家に話を聞いた」「消息通に話を聞いた」といった大手マスコミ政治部の取材手法とは異なり、一般に公開された情報のみを用いて、気鋭の研究者が国内・国際政局を分析する。

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