DeNAやYahoo!、DHCなど、あまたの有名企業が新たなビジネスチャンスとして参入をはじめた“遺伝子検査”。病院など医療機関を通さないことから「DTC(Direct-To-Consumer)遺伝学的検査」と呼ばれる。しかし、「最先端科学の粋」を謳うこのビジネスが、医療における遺伝学的検査とは異なり、実はこじつけに過ぎないような“占いまがい”のものだと知れば、驚く方も多いのではないだろうか。過熱する“遺伝子検査”ビジネスの内情をレポートする。(取材・文/上野ヒトシ)

乳がん予防で乳腺切除!
衝撃的だったアンジーの決断

 2013年5月、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がんを予防するために乳腺を切除したというニュースが世界を駆け巡った。抜群のスタイルで知られる女優が、自らの肉体にメスを入れる選択をしたという衝撃から、世界に「アンジェリーナ効果」とも呼ばれるセンセーションを巻き起こした。

身長に関する遺伝子は700にも及ぶが、ある企業のDTC“遺伝子検査”では、このうち1つのみを検査して結果を出そうとする。こんな検査では科学的とは到底いえない

 ジョリーさんが手術を決断した背景には、「BRCA1」という遺伝子の変異が判明したことがある。BRCA1は「がん抑制遺伝子」のひとつで、この遺伝子に変異があると「遺伝性乳癌卵巣癌」を発症するリスクが跳ね上がる。

 このがんは、通常の単発で起こる乳がんまたは卵巣がんとは全くの別ものであり、しかも繰り返し発症する可能性が高い。彼女の母の家系がこの変異を持っており、母を含めた3人の近親者が遺伝性の乳がんと卵巣がんで早世していたため、リスク低減のための切除手術が行われた。さらにジョリーさんは、2年後の15年に卵巣と卵管の切除も公表した。摘出した組織には、良性ではあるものの腫瘍が認められたという。

 著名な女優の「予防的手術」が世間に与えたインパクトによって、わが国でも“遺伝子検査”への注目度がにわかに高まった。そのような中で、各社が競うように進出したのが、民間によるDTC“遺伝子検査”だ。世間一般ではひとまとめに“遺伝子検査”と呼ばれるが、厳密には正しい呼び方ではないという。

「“遺伝子検査”と言っても、体外から侵入して感染症を引き起こす病原体を検出・解析したり、がん細胞など、もともと親から引き継いで持っていた遺伝情報ではなく、生後どこかの時点で一部の組織の細胞の遺伝子に起きた変異を発見する検査のことを指す場合もあります。このような検査では、親から子どもに受け継がれない情報を取り扱うため、必ずしも遺伝医療の専門家が介在する必要はありません。後天的に変化する遺伝子情報だからです。一方、それらに対し、子孫に受け継がれる情報を扱う検査を医学界では『遺伝学的検査』と呼んでいます」

 こう語るのは、北里大学大学院・臨床遺伝医学講座教授の高田史男医師だ。