「重要なのは、DMNのエネルギー消費量は、脳の全エネルギー消費の60〜80%を占めるとも言われておることじゃな。つまり、DMNこそが脳のエネルギーの最大の浪費家であり、ここに脳の疲れの正体があるのではないかということなんじゃ。逆に、何か意識的な作業をするにしても、追加で必要になるエネルギーは5%ほどじゃというから、いかにDMNが大食漢かということじゃな[*3]。

*3 Raichle, Marcus E. “The brain's dark energy.”Scientific American 302.3 (2010): 44-49.

脳を休めたければ、エネルギーの浪費家であるDMNを使いすぎないようにせねばならん。マインドフルネスに習熟すれば、その要である内側前頭前野と後帯状皮質の活動を抑えることができる。こうして瞑想は、雑念が脳のエネルギーを無駄遣いするのを防いでくれるというわけじゃ」

脳のアイドリング中に浮かんでくる雑念こそが、脳疲労の最大要因の1つであり、その雑念を抑えることで脳を休ませるというのが、マインドフルネス瞑想の基本メカニズムらしい。

「脳のアイドリング」が人間を最も疲れさせる

「なるほど、ただぼーっとしていても、脳は動き続けているから、まったく休息にならない可能性が高いってことですね」

「うむ。うつ病などにTMS磁気治療が有効なのも、これがDMNに作用するのが理由の1つじゃ[*4]。わしの弟子に、ロサンゼルスでクリニックを開業しとる物好きな日本人がおるが、彼のクリニックでは10例ほどの患者にTMS磁気治療を行ったところ、倦怠感の改善が統計的に有意に見られたという[*5]。これもDMNと脳の疲れの関連性をサポートするデータと言えそうじゃな。

*4 Liston, Conor, et al. “Default mode network mechanisms of transcranial magnetic stimulation in depression.” Biological Psychiatry 76.7 (2014): 517-526.
*5 当院プレリミナリーデータによる。Zungうつ病尺度における「倦怠感」項目の変化をTMS磁気治療の前後で比較した結果、倦怠感は36.1%改善し、統計的に有意な低下が見られた(p<0.01)。

あとは、うつ病の人たちには『あのとき、ああしておけばよかった』というネガティブな思考の反復、いわゆる反芻思考(rumination)がよく見られる。この種の思考も脳の疲労に直結するわけじゃが、これもまたDMNの使いすぎとの関連性が指摘されておる[*6]」

*6 Sheline, Yvette I., et al. “The default mode network and self-referential processes in depression.” Proceedings of the National Academy of Sciences 106.6 (2009): 1942-1947.
 Sheline, Yvette I., et al. “Resting-state functional MRI in depression unmasks increased connectivity between networks via the dorsal nexus.” Proceedings of the National Academy of Sciences 107.24 (2010): 11020-11025.

「くよくよと思い悩む人ほど、脳のエネルギーを浪費するってことですね」

ヨーダに圧倒され気味になりながら、私はなんとか返事をした。