警察だけでなく、私たち一般人でも他人を「逮捕」できるケースがある。それが「私人逮捕」である。先日、福岡市でも実際に行われた。しかし、私人逮捕には疑問もある。たとえば「もしも逮捕が誤認だったらその責任は?」「実際に私人逮捕の例はどれだけある?」「そもそも逮捕の定義とは?」といったものだ。これらの疑問について、弁護士に取材し、私人逮捕の詳細をまとめた。(取材・文/有井太郎、編集協力/プレスラボ)
一般人でも他人を逮捕できる?
福岡市で行われた「私人逮捕」とは
「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる――刑事訴訟法第213条」
7月8日、福岡市のある中学校で、男子中学生が教員に暴行する事件が起きた。すると別の教員が、暴行する生徒を現行犯で逮捕したという。警察ではなく、一般の教員が生徒を逮捕したという珍しいケースがネットで話題となった。
日本の法律では、私たち一般人でも、ケースによっては犯人を逮捕することができる。それが「私人逮捕(常人逮捕)」というもので、冒頭に記した刑事訴訟法(以下、刑訴法)の第213条が該当する。つまり、「現行犯」であれば誰でも逮捕できるのだ。
いったい、どういう状況や認識のもとでこのような行動が可能となるのか。多くの読者が知らなかったであろうこの「私人逮捕」について、解説しよう。
私人逮捕が可能となる条件はもう少し細かい。東京永田町法律事務所の小野雄一郎弁護士は、こう説明する。
「私人逮捕では、まず現行犯か準現行犯であることが条件となります。現行犯は、現に罪を行っているか、または現に罪を行い終わった者。準現行犯とは、『泥棒!』などと言われて追いかけられている者や、明らかに犯罪に使われた物(血の付いた包丁など)を持っている者、返り血が体や服につくなど身体または被服に犯罪の顕著な痕跡がある者などで、かつ罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者です。ここでは、準現行犯も含めて『現行犯』と呼ぶことにします」
さらに現行犯だとしても、軽度な罪の場合は、犯人の住居や氏名が不明であるか、逃亡の恐れがあるのでなければ私人逮捕は行えない。
ここで言う「軽度な罪」とは、30万円以下の罰金や、拘留(1日以上30日未満の刑事施設への拘置)、科料(1000円以上1万円未満の金銭の徴収)に当たる罪である。「たとえば過失傷害罪(不注意でケガをさせる)や侮辱罪などは、犯人の住居・氏名の不詳や逃亡の恐れがないと、現行犯でも私人逮捕ができません」と小野氏は述べる。