「幸せ食堂」繁盛記
【第三十四回】 2016年8月15日 野地秩嘉

日本橋浜町の鶏料理一筋の老舗で、
ボリューム満点の鶏肉三昧を。
宴会も可能な楽しい庶民派食堂

創業は明治25年という老舗

 大金はだいきんと読む。おおがねではない。創業は明治25年(1892年)。浜町と人形町の中間に位置している。明治25年と言えば日清戦争が起こる以前で、伊藤博文、松方正義、山縣有朋など明治の元勲がまだピンピンしていた頃だ。当時から鶏肉の料理を出していたのだが、そのなかの「きじ丼」はどうやら雉肉だったらしい。

 サービス係として働いている鈴木文子さんは言う。

「うちのおじいさんがそう言っていたような気がするの。きじ丼って、いまは焼き鳥丼のことだけれど、昔はほんものの雉肉を出してたって。でも、私は食べたことがないから、どんな味かはわからない」

 フランス料理ではジビエのひとつとして雉(フェザン)を食べる。濃厚なソースで味付けしてある。わたしは何度か食べたことはあるけれど、「なるほど」と思っただけだ。ただし、一度だけ「おいしい」と思った雉肉がある。その雉はどんぐりを餌にしていた。鶏、鴨はどんぐりを食べない。くちばしでどんぐりの殻を割ることはできないからだ。だが、大型の雉は食べることができる。そのせいか、わたしが食べた雉肉はイベリコ豚のベジョータみたいなナッツの味がした。

 さて、話は大金に戻る。代表取締役で料理長の鈴木裕俊は言う。

「うちは鶏肉料理の店です。人形町には鶏肉屋さんが多いから、競争しています。どこで食べても安くておいしいから、それなりの特色がなくてはいけない。うちの特色は量が多くて安いこと。近所のサラリーマン、久松警察の警察官が常連さまです」

 大金が使っている材料は鶏肉、玉子、海老、野菜などである。

 たとえば、かつ重(810円)のかつはチキンカツ。天重(880円)の天ぷらは鶏と海老、玉ねぎ、しいたけ。ミックスフライライス(930円)はチキンカツとエビフライのミックス。鶏肉のおいしさを追求している店と言っていい。

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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