行政や議員というものは、やはり、住民がしっかりチェックしていないと好き勝手にやってしまうものなのか。名古屋市で進行中のある騒動をみて、そんなことを改めて実感した。そして、強固な馴れ合い体質が自治体内をどれほど蝕んでいるか、想像を絶する現実についてもだ。

 真夏に市議会リコールの署名集めが展開された名古屋市。一般住民から遊離し、家業化、固定化した市議への鬱積が一気に噴出した。市長主導の議会リコール運動は暴挙との批判を浴びながらも、署名数は46万5000余りに達した。住民の不満や憤りが数値となって現れた。たかを括っていた市議たちは皆、驚愕し、一斉に選挙対策に走り出した。

 署名簿は10月4日に市内16区ごとの区選挙管理委員会に提出され、審査にかけられた。市議会リコールの是非を問う住民投票実施に必要な署名数は、約36万5000余り。無効と判定されて差し引かれる分が多く出ても、合格ラインはクリアするとみられていた。選管による審査期間は法律で20日以内と規定されており、10月24日がその期限だった。署名数が確定され、住民投票に進むか否かが明確になるはずだった。

 だが、事態は思わぬ方向へ展開する。名古屋市選挙管理委員会と16区の選挙管理委員会は10月21日、合同会議を開いたうえで再審査と審査期間の延長を決めた。本来の審査期限のわずか3日前の異例の判断である。議会解散直接請求の署名集めには細かな規定が設けられている。例えば、署名集めをする人についてである。誰もが集められる訳ではなく、直接請求の代表者とその代表者から署名集めを委託された受任者に限定される。

 選管側が疑問視したのは、請求代表者が集めたとされる約11万4800人分の署名についてだった。わずか10人の請求代表者が集めたというには「常識的にみて多すぎる」と、疑いの目を向けている。「ルール通りに集められたものかどうか確認する必要がある」として、署名簿に記された住所に質問書を郵送し、一人一人に確認する方法などを検討している。

 再調査の方針に猛反発しているのが、署名集めを行った河村たかし市長の支援団体「ネットワーク河村市長」である。請求代表者が行った街頭署名の常設コーナー(複数)の中で、一カ所で2万6000人分を集めた事例をあげ、11万4000余りは「代表請求人が集めたもので、不思議な数字ではない」と反論した。そして、「公正中立であるべき選管の暴走」と、市選管を激しく非難した。こうして住民団体と選管が真正面から激突する事態となった。地味な存在で、住民に注目されることのなかった選管に関心が集まった。