そもそも選挙管理委員会(以下選管)とはどのような組織なのだろうか。選管は、地方自治法によって設置が義務付けられている行政委員会のひとつである。行政の執行機関から独立したもので、名古屋市のような政令指定都市では市のほかに各行政区にも設置される。議会における選挙で選ばれた4人の委員によって組織され(行政区の選管も同様)、委員の任期は4年。委員は独立性が法律で担保されており、非常勤ながら毎月定額の報酬が支給される。

 名古屋市の場合、市選管委員長が月36万9950円で、市選管委員は月35万7340円。区選管委員長は月12万4210円、委員が9万8110円となっている。月2日程度の定例委員会と行事、それに市議会本会議に出席するだけなので、高額報酬といえる(本来、日当制にあるべきだ)。

 選管は国政選挙や首長選挙、議会選挙などを管理するほか、「選挙が公正かつ適正に行われるように、選挙人の政治常識の向上に努める」などの啓発事業を担う。きわめて地味な役割ながら、民主主義を下支えする重要な組織といえる。そのため、選管委員は「選挙権を有する者で、人格が高潔で、政治及び選挙に関し公正な識見を有するもののうちから、議会において選挙する」ことになっている。

 こうした選管の役割のひとつに、住民による直接請求の署名の審査がある。名古屋の市議会リコールの署名審査がまさにそれだ。今回の署名審査は16区ごとの区選管が実施していた。しかし、審査期間延長の判断は市選管が行ったものとみられている。では4人の市選管委員とはどうような人達なのか。調べてみたら、意外な事実が明らかになった。

 名古屋市の場合、4つある選挙管理委員ポストのうち、3つを元市議会議員がおさえている。それもかつてのオール与党体制を構築していた民主党と自民党、それに公明党の市議会三大会派が仲良く一人ずつ。もうひとつの会派である共産党は選管委員を送りこめず、元小学校長が4人目の委員となっている。前の任期(04年から08年)の選管委員も同じ構成となっており、自民と民主、公明の元市議が就任していた。つまり、選管委員のポストがかつての与党会派の引退市議の指定席(天下り)のように扱われているのである。

 名古屋には「高潔で、公正な識見を有する」人材が元市議にしか見当たらないのかもしれないが、こうした実態は「常識的にみて」問題ありといえる。政治的に公正中立であることが選管の肝であるからだ。

 16ある行政区の選管委員の中にも元市議が3人いる。こちらの選管委員も市議会での選挙で選ばれる建前になっているが、合計64人の選管委員候補者の一覧が議会に提示され、シャンシャンとすんなり決まるのが通例だという。事前の根回しで、話がついているのである。もちろん、水面下で行われる選考過程だけでなく、実際に選出された選管委員について住民の多くは知るよしもない。

 こうした選管委員の実態を知れば知るほど、今回の市選管の物言いに疑いを抱いてしまうのである(高額報酬の選管委員が元議員の天下り先になっているのは、名古屋市だけの話ではない)。