
国内コメ市場を「“じゃぶじゃぶ”にしなければいけない」と豪語する小泉進次郎農水相は、政府備蓄米を大量に放出している。コメ先物市場における取引価格は小泉氏の農水相就任前より15%以上下がっており、政策の効果は確実に表れている。だが、政府は元来、コメは需要と供給のバランスで決まるという市場主義のはずだった。それが、なぜ積極介入主義に“転向”したのか。実は、農水省の二つの判断ミスが「政策の一貫性」を損なう事態を招いていた。農水省の失態と、その弊害を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)
戦力の逐次投入の末、戦況が好転しないので
大量破壊兵器を多用しているような異常事態
小泉進次郎氏が、農水相就任後に、5キロ1700~2000円の政府備蓄米の放出などを矢継ぎ早に打ち出し、テレビなどをにぎわしている。まさに「小泉劇場」だ。
コメの小売価格は1年間で約2倍になっており、過熱していることは確かだ。しかし、筆者は、政府による市場介入が、米価の暴落、さらにその後の乱高下を招きかねないと懸念している。
小泉農水相は6月10日、随意契約による備蓄米をさらに20万トン放出すると発表した。これまでに放出した備蓄米と合わせて、計81万トンが市場に流入することになる。さらに、25年産米は前年比40万トンの増産が見込まれ、民間在庫の水準は14年の米価暴落時をはるかにしのぐ水準になる見込みだ(詳細は『小泉農水相の備蓄米放出で「米価暴落」と「農業法人倒産」リスク増大!食料安全保障を脅かしかねない事態に』参照)。
さらに6月12日には、関税ゼロで輸入するミニマムアクセス米のうち主食用10万トンの一部の入札時期を例年の9月から6月に前倒しして行うことも表明した。新米が出回る時期に輸入米が市場に流れるため、米価の下押し材料となる。25年産米が平年並みの収穫量になれば、強い値下がり圧力が生じるだろう。
小泉農水相は「(国内コメ市場を)“じゃぶじゃぶ”にしていかなきゃいけない。そうじゃなかったら価格は下がらない」と豪語しているが、まさに過度な供給過剰の状態をつくり上げているのだ。すでに政策の効果は出ている。コメ先物価格(堂島コメ平均)は、小泉氏が農水相に就任した直後の5月26日のピーク時から月16日の終値までに15.8%下落している。
しかし、である。実は、政府は令和のコメ騒動の当初、コメ市場への介入に消極的だった。岸田文雄首相(当時)は21年、国会で「備蓄米を需給操作のために運用することは、制度の趣旨に沿わない」と明言していた。スーパーの売り場から、コメがなくなった24年8月、農水省が備蓄米の放出に慎重だったのは、政策の一貫性という意味では当然だったのだ。
政府が市場主義を採用していた背景には、米価を国が決めていた食管制度が終わった後も、米価が下がる度に農協から「コメの政府買い入れ(=市場隔離)」を求められ、応じざるを得なかった苦い経験がある。農家や農協には、コメを作れるだけ作って、市場がダブついたとしても、最終的には政府が買い支えてくれるという“甘え”があったことも事実だ。
それでは、いつまでも農業が産業として自立しないということで、政府は米価を市場に委ねることにしていた。
では、なぜ農水省は市場主義から介入主義に“転向”したのか。次ページでは、同省がコメ市場への大規模介入に踏み切らざるを得ない事態を招いた、二つの失態を明らかにする。